今回は「3千mに届かない日本アルプスの山」を標高の順に並べる。 何れも「日本百名山」で、夫々独特の風格を備えた山である。

「百名山」が出たついでに言わせてもらう。世間の「はやり事」にイチャモンを付けたがるのは老人になった証拠とされるが、齢80の坂を越えたのだから臆することはない。昨今のテレビに山歩きの番組が増えたのは嬉しいが、どれも安易に「百名山」を冠するのが気にくわない。「百名山」は深田久弥が選んだ日本を代表する百の名山で、里山をちょこっと歩く番組にまで仰々しく「百名山」を冠するのは番組制作者の手抜きで、「残りの99はどうするの?」と聞きたくなる。

里山がダメと言っているのではない。日本では昔から低い里山にも夫々立派な「名前」があり、その頂に祠があって、麓の村人が敬愛を込めて世話をしてきた。村人だけでなく、通りがかりの旅人も頭を下げ手を合わせる風習は、山岳信仰と言うより日本の「文化」であり、日本人の「心のやさしさ・美しさ」を表象しているように思われる。そういう心象にふれた山の番組も少なくないが、そんな番組まで無造作に「百名山」でくくられると、興覚めが先に立つ。

大矢壮一が1957年に「一億総白痴化」を予言したように、テレビが人間の想像力や思考力を低下させてきたことは否めない。そのテレビにとって代わったネット情報は、一億総白痴化を更に加速させている。公共放送の番組の中には「精一杯頑張っている」と褒めたくなる作品もあるが、12月にチャンネルを再編成(削減)する由。良質な番組がはじき出されて白痴番組が残るとすれば、この国は落ちるところまで真っ逆さまに落ちると、老人はいらぬ心配をする。


82.剣岳 (2999m)     撮影:別山から           2004/7/28  08:13

剣岳は標高3千mに1m足りないが、垂直の岩壁に守られた山頂の登頂が容易でないことは、新田次郎が「点の記」(映画化)で描いたとおりだ。日露戦争直後の明治40年(1907)、陸軍参謀本部陸地測量部が三角点設置のために苦労して登頂を果たしたが、山頂で古い仏具を発見し、平安時代に登頂した仏教者がいたと分かった。

日本百名山踏破を目指す者は剣岳にも登ることになる。我々が参加した登山ツアーは、事前にセルフビレイ(自分の安全を確保する術)の研修を義務付けられていた。腰に安全ベルトを付け、岩場に設置された鎖に2組のカラビナを交互に掛けながら登り下りし、滑落しても致命的な事故を免れる仕掛けだ。険悪な難所には頑丈なステンレスの鎖の他に鉄の梯子や足場が設けてあるので、岩登りのシロウトでも安全に行動できる。

持ち物を最小限にするため、カメラは一眼レフでなく小型のレンズ一体型を持参した。登頂の翌日、少し遠回りして剣岳と対面する別山から撮ったのがこの写真で、左の別山尾根に我々が登ったルートが見える。

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Minolta DSC 7.2mm(28mm相当) ISO200 f9、1/1000


83. 黒岳(水晶岳)(2986m)    撮影:槍ヶ岳山荘から       2010/8/5   05:43 

北アルプスの最奥に位置する黒岳は登山口から山頂まで2日以上を要し、百名山の難関の一つとされている。周囲の山は花崗岩質で白っぽいが、この山は閃緑岩質で有色鉱物が多いのが「黒岳」の由来で、山頂で水晶が採れるので「水晶岳」の別名もある。

槍ヶ岳からこの写真を撮った時、雲海に浮かぶ峰々を同定(山名を確認)できなかったが、後日Googleの三次元地図で、中央右のゴツゴツした山が黒岳と分かった。中央左の鷲羽岳も百名山である。

関連記事: 北アルプス-2 水晶岳  2010年リベンジ登山 槍ヶ岳


ニコンD200、18-200(130mmで撮影) ISO200、 F8, 1/100  EVー0..3


84.甲斐駒ヶ岳(2967m)      撮影:北岳肩の小屋下から       2013/6/28 06:25 

日本には「駒ヶ岳」の名を持つ山が18座あり、木曽駒、会津駒、越後駒のように所在地名を冠して区別している。何れも名山ばかりだが、標高が一番高い甲斐駒が容姿も優れている。

期間限定(6月下旬)の「キタダケソウ」に会いに行った帰り道、この風景に出会った。チャームポイントの花崗岩の白い山頂は逆光でくすんでいるが、見事なピラミッドは間違いなく甲斐駒で、右奥に八ヶ岳が浮かぶ。

関連記事 日本百名山 中央・南アルプス 甲斐駒ヶ岳  2013年山歩きレポート 北岳


ニコンD300S  18-200mm(26mmで撮影) ISO400、F8、1/400 


85.薬師岳(2926m)    撮影:太郎山から             2008/7/22 15:41

薬師岳も各地にあるが、立山連峰の薬師岳は「北アルプスの貴婦人」と呼ばれる.。貴婦人と言っても楚々たる美女ではなく、16人の子を生んだハプスブルグ家のマリア・テレジアのように、大きなお尻をどっかり据えた女帝だ。広大な山頂部は霧に包まれると方角を見失いやすく、大量遭難を起こした魔女でもある。

手前の太郎平小屋の屋根は赤く塗られている。他の山小屋も赤屋根が多いのは、悪天候時に視認されやすくする為だろう。

関連記事 日本百名山 北アルプス-1 薬師岳


Nikon D200 18-200mm(29mmで撮影) ISO400、 F9.5、1/320  EVー0.3 


86.笠ヶ岳(2898m)    撮影:穂高岳山荘から          2009/8/24  17:45

山の姿は見る方角によって違って見えるが、笠ヶ岳の山頂部はどこから見てもこの形だ。6万年前に噴火した鐘状火山で、山頂部の浸食がまだ進んでいないのだろう。1万年後にはどんな姿になっているだろうか?

この日は奥穂高岳で日本百名山完登を果たし、ビールと夕食を済ませて小屋の外に出ると、雲海に笠ヶ岳のシルエットが浮かんでいた。

関連記事: 日本百名山 北アルプス-1 笠ヶ岳  北アルプス-2 穂高岳


Nikon D200 18-200mm(90mmで撮影) ISO200 f8 1/640


87. 鹿島槍ヶ岳 (2889m)   撮影:鹿島槍スキー場の上、1546m地点から  2012/2/21 12:35 

還暦近くで山歩きを始めた我々は、冬山を歩く技術も装備も(体力も)ない。スキーも上手くないが、リフトでゲレンデの最上部まで上がって何とか滑り下りることは出来た(転んでカメラを壊さぬように恐る恐るだが)。

No90の唐松岳を撮った帰りの温泉宿で「スノーシューで鹿島槍を見る」のチラシを見つけた。事前の予約なしではダメと言われたが、ムリにお願いしてガイドを乞い、リフトの終点からスノーシューを履いて1546m地点(地図にそう書いてある)に登ると、鹿島槍が冬装束で迎えてくれた。

関連記事:2012年山歩きレポート 冬の後立山展望 日本百名山 北アルプス-2 鹿島槍ヶ岳


Nikon D200  18-200mm(90mmで撮影) ISO200 F8、1/640


88. 黒部五郎岳  (2840m)     撮影:槍ヶ岳山荘から         2010/8/5  06:09

雲海が稜線を越えて流れ落ちる「滝雲」は、地形と気象条件が合った時に起きる稀有な現象である。No83の雲海に浮かぶ黒岳を撮ったすぐ後に黒部五郎の見事な滝雲に出会えたのは、ラッキーだったというしかない。

黒部五郎岳はスプーンですくい取ったようなカールが見事で、もう一度登りたい山だったが、長いアプローチを思うとあきらめるしかない。

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Nikon D200  18-200mm (120mm で撮影) ISO200  f8、 1/80 EVー0.3


89.黒部五郎岳-2     撮影:黒部五郎岳カールから        2009/8/18  9:56

「日本百名山の登山では、今登っている山の写真は撮れない」と言ったが、唯一の例外がこの作品で、黒部五郎の登山でカールの底から山頂を見上げて撮った。「五郎」は「大きな石がゴロゴロ」が転じた呼び名で、「これぞ黒部五郎」が撮れたと思っている。


Nikon D200  18-200mm (35mm で撮影) ISO200  f11、 1/60 (友山クラブ写真展出展作品)


90.五竜岳(2814m)     撮影:白馬五竜スキー場最上部から    2012/2/20  13:01

スキーリフトを下りると目の前に五竜岳があり、山頂直下の「武田菱」に午後の光が斜めに当たっていた。ゲレンデを外れればもっと良いアングルで撮れたかもしれないが、山スキーが出来ない小生はこれで満足するしかない。

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Nikon D300S  18-135mm (130mm で撮影) ISO400  f7.1  1/250