人間が現れる前
その昔、マエオ島はアンバエ島やペンテコスト島と繋がっていた。だが、一人のとてつもなくバカな女が小便をたれ続け、それで海面が上昇し、マエオの低い土地が水没したので、島が三つに分かれたのだ。それまで飲めた水は、塩辛くなって飲めなくなった。人々の暮らしをすっかり変えたのだから、全く迷惑なことをしたものだ。それから岩が爆発し始めた。アンバエ島が火を噴き、赤く焼けた石がしょっぱい海に落ちた。
何ヶ月も雨が続き、水と火の戦いが始まった。水が少しずつ優勢になり、火山は勢いを失って火口は湖になった。マナロ・ンゴル(乾いた湖)とマナロ・ラクハ(大きな湖)、ラナロ・ラクハ・ブイ(心霊の住むの大湖)は今もある。
雨がようやくやみ、どこからかおかしな奴らがやって来た。それはタル・トゥエイで、全く変ちくりんな奴らだった。そいつは果肉を食うべき果物の種を食い、種を食うべき果物の果肉を食った。洞穴や木の下に住み、巣は作らなかった。行く先に岩があると、岩を避けて通らず、石斧で砕いて行った。ヤムイモを栽培せず、野生の苦いヤムを食った。海が荒れるとラプラプを具えた。あいつらは、これ見よがしに派手な自殺をした。木の下に鋭く尖らせた杭を打ち込み、そこに飛び下りるのだ。飛び降りて、自分を刺し貫けないような男は軽蔑され、逆に、見事に死んだ男には、最大の栄誉が与えられた。奴らは後ろ向きに歩き、何でも逆にやったと言われている。時々彼等が使った土器の破片が出てくることがある。次に表れたのはラグムエフだが、彼等については何も知られていない。
タガロが人間を創った話
今日のような人間が出来るまで、二種類の実体がこの生き物を支配していたというが、その実体がどんなものだったか、よく分かっていない。ある者は、それは人間だったと言うし、別の者は霊だったと言う。人間と霊とが合わさった最初の者がタガロで、彼は様々なものを創造した優れ者だった。タガロは特別に強かったわけではないが、健康そのものだった。次に表れたのがムエラグブトで、こいつは知恵がなく醜くて、災厄と争いごとのシンボルみたいな存在だった。タガロのような知恵者に見せようとして、タガロの真似ばかりしていたが、タガロはそのしぐさを見るのが耐えられず、生きたまま焼き殺してしまった。
タガロは、泥んこの島で一人ぼっちになったことに気付いた。そこで彼は泥で自分の像を作った。「これが頭」「そして、この二つの穴が目」。それから鼻、耳を作った。口を作って考えた。「ここから出るものは、見事なスピーチもあるし、時には愚にもつかないものもある」
手を作り、性器を作り、それから足を作った。最初の人間像が出来上がった時、それはタガロ自身にそっくりだった。彼は喜んで10人を追加した。彼はこう考えたのだ。「こうすれば、最初のやつも淋しくないだろう。人は一人では淋しい。こいつは人に話しかけ、人のために美しいものを創らねばならない」
体が出来上がると、タガロは最初の男の口に息を吹き込んだ。するとその口から声が出た。耳を吹くと聞こえるようになった。足を吹き、手を吹き、性器を吹き、目を吹くと、男は生きた人間になった。
タガロは二番目にも同じことをした。三番目、四番目が終わったところで、彼は叫んだ。「これは素晴らしい! 俺は生き物を創ったぞ。こいつらは動き、考える。俺のこの手先で創ったのだぞ!」
彼は自分が創ったものを見わたして、ちょっと困惑した。像をぐるぐる回してみて、全部男であることに気が付いたのだ。「男ばかり創って、女を創り忘れたぞ」
タガロが女を創った話
タガロは男たちに一列に並ぶように命じた。彼はオレンジを取って来て、一人の男の急所に投げつけた。急所は地面に落ちた。その男は痛がって泣いた。彼は女になった。タガロはツペという蔓草の葉で帯を作り、それを女の腰に巻いて言った。「お前は女だ。ここに居てはいけない。あっちへ行け」
女はその場を去り、一人だけで自分の家に行った。タガロはもう一人の男に、女の家に行くように命じ、「女の言うことを良く聞くのだぞ」と言った。
女は喜んで男を迎えた。「私のお兄さん、うれしいわ。だけど、何が欲しいの?」 タガロは男に、あの女はお前の妹になったのだと言った。
次の男を送り込むと、女は「あら、下の弟だわ」と言った。
タガロは最後の男を送り込んだ。
女は言った。「私の夫が何故ここに来るのかしら?」
男はタガロのところに戻って言った。「あの女は、私の夫と言いました」
タガロは言った。「それなら、あの女がお前の妻だ。一緒に暮せ。だが、俺が教えるまで性行為をしてはならぬ」
だが、夫はタガロの命令を無視して、その夜、妻の体を開いた。妻は泣き叫び、血が敷物に流れた。叫びを聞いてタガロが駆けつけ、男を叱った。
「お前は、どうして俺の言うことを聞けなかったのだ。お前は妻を傷つけた。これからは俺と戦うことになる」
女は双子の男児を産んだ。女は左の乳房でムエラグブトに乳をやり、右の乳房でタガロに乳をやった。こうして男たちは二つの部族に分かれ、相手方の部族から妻を娶らなければならなくなったのだ。
その昔、マエオにアソという名のおかしな男がいた。彼の食い物は人肉だった。彼は島の人たちに恐れられていた。腹を空かせて近くの村に近づくと、男も女も子供も恐怖の声をあげて逃げた。「気をつけろ! 人食いが来るぞ!」 島の人々は気の休まる時がなく、いつもビクビクしていた。
アソにはとてつもなく醜女の妻がいた。彼女は夫の血なまぐさい食事の支度をする魔女だった。時には、彼女自身で人狩りをすることもあった。アソは豚をたらふく食って太った人の肉が好きだったが、妻の方は軟らかくて脂肪分の少ない子供の肉が好物だった。だから、タガロがこの恐ろしい女に、自分の子供をとられないように気をつけたのは当然のことだった
アソがよく人狩りに行く村の一つに、美人の妻をもらったばかりの男がいた。二人はとても幸せだったが、その頃は争い事が多く、若い夫は戦いに出なければならなかった。ああ、何と言うことか、男は最初の矢に当たって帰らぬ人になってしまった。妻は泣き叫び、涙で溺れんばかりだった。彼女の唯一の慰めは、自分の腹の中で動くものがあったことだ。ハンサムで勇敢な夫の残したものだった。
しばらくして、彼女は素敵な双子を生んだ。子供たちはタロイモ、ヤムイモ、魚や豚を食べて、すくすくと育った。マエオではどこの家庭でもそうだが、母親が戦闘のしかたを教えた。
「おまえ達に、男の仕事を教えてあげる」と母親が言った。「おまえ達には、敵に殺される前に、敵を殺さねばならない時がいつか来る。それがこの島の掟だよ。この弓をあげる。弦が跳ね返るときに気をつけなさい。これがあなた達のお父さんのナルナルだよ。重いからしっかり持つのだよ。もう少ししたら、この武器をどうやって使うか分かるようになる。しっかり練習しなさい。だが、気をつけるのだよ。アソは恐ろしい男で、あの妻はずるい魔女だよ。二人はあっちの方角にいるから、あっちに行ってはいけない。あいつらに食われてはいけない。もうお父さんはいないのだから。私にはもうおまえ達しかいないのだから」
双子の兄弟は、母親の言うことを注意深く聞いたけれど、好奇心を掻き立てられた。もう一人前の男になっていたし、身を守る武器も持っている。二人はアソの家に近づいた。
二人が会ったのは、あの恐ろしい女だった。
「悪いけど、アソは今いないよ。もうすぐ帰ると思うけれど。ナカマルで待っていなさい。帰ってきたら教えてあげるから」と言った。二人はナカマルで待つことにした。
魔性の女は夫に歌で知らせた。
アソ、アソ、ルル レツンク アソ
ルル レツンク アソ
ガンダル タマテ モ トガ ロ ガマリ
ガム レツアギ ガンク レツアギ
アソ、 アソ、 アソ
アソは畑で歌を聞いて「何かあるようだ」と独り言を言った。「妻がうまい肉を見つけたのかもしれない」と言って、ニヤニヤしながら両手を揉み合わせた。
妻が歌い続けていたので、彼は叫び返した。「今行くよ、愛しい悪魔のカアチャン」
アソは広場に着くと言った。「さあ、美人のカアチャン、何が出来たかな? タガロにぴったりのご馳走かな?」
女は笑って言った。「お前さん、子供が二人、ナカマルで待っているよ」
女はますます大声で笑い、二人の子供を見に行った。二人は砂絵を描いて遊んでいた。アソは出来るだけ優しくした。
「訪ねてくれて本当に嬉しいよ。俺に会いに来たんだってね。まず家に行ってメシを食おう」と言った。
双子は答えた。「アソさん、有難う。俺達もとても腹がへっているんです」
家に着くとアソは二人を座らせ、ラプラプを取りに行った。だが、双子は彼のたくらみに気付いていた。
一人が言った。「俺達が食事をしている間に、俺達を殺して食う気だ。メシは交代で食おう。そうすれば一人が防御について戦えるから」
二人はとてもうまく手順を考えて食事をしたので、アソは襲うことが出来なかった。そこで別のトリックを考えた。
「さあ、俺の頭の虱を取ってくれないか。かゆくてしかたがない」
「良いですよ、取って食べてあげましょう。そこに寝て下さい」
アソが地べたにねころぶと、二人が優しく揉んだので、アソは眠りこんでしまった。イビキを聞いて二人はニヤリと笑った。それから、編みあげた長い髪を家の柱に結び付けた。アソは目を覚ましたが、身動きがとれず、動けば動くほど痛くなった
子供の一人が言った。「お前が人を食っているのは知っているぞ」
アソはうめいた。「それは違う。頼むから放してくれ」
二人は同情しなかった。ナルナルの鋭い一撃でアソを殺し、家に火を放った。そうしてからアソの妻に会って言った。「恐ろしい女よ、足を開いて、あそこを見せろ」
女は笑って言う事を聞かなかったが、二人はなおも迫った。ラプラプを石蒸しにするときに使う黒い石を火で焼き、それをマエオの言葉でガイバラと呼ぶ木のハサミでつかみ、女がようやく開いた足の間に、その熱く焼けた石を押し込んだ。魔女は悲鳴をあげた。
「これがお前のしたことの報いだ」と一人が言った。「俺達はアソを殺した。今度はお前が死ぬ番だ」
二人は女をナルナルの一撃で殺し、家に火を放った。魔女の秘所を焼いた石は、その場所に残された。双子がアソとその妻が死んだことを告げると、近くの村の人たちが集まった。
双子の一人が言った。「あっ、あの石から植物が生えているぞ」
集まった男の一人が尋ねた。「あれは食えるものだろうか?」
一匹のネズミがその若い植物の枝を齧ると、おかしな行動をとった。まるで踊るように首を左右に振り、酔っ払って巣穴に戻れなくなったのだ。こうして、男たちは、植物の根を砕いて、その液を飲むようになった。土のような味がするが、飲んだら良い気分になるのだ。
アンバエの男たちが豚を買いにマエオにやって来て、新しい飲み物を試し、アンバエに持ち帰った。カバは男たちをハッピーにする。男は女が好きなように、カバも大好きだ。それは、カバが女のあそこから生えたものだからだ。