今回の民話に、「エロマンゴ島」が出てくる。地図によっては、「エロマンガ島」と記されたものもあり、高校生の地理の授業でこの島名を見つけ、教室が大騒ぎになったのを思い出した。バヌアツでは、この島は神様が生まれた聖地とされているので、下品な連想をすると、バチがあたるかもしれない。19世紀半ば、この島で白壇の群生が発見され、白人商人が殺到して疫病をまき散らし、先住民の95%が死んだ。東京都23区の1.5倍の面積を持つこの島の人口は、今も1700人に留まる。罰を被ったのが、強欲な白人ではなく、罪のない先住民だったのは、誠に気の毒である。

南太平洋の言語には、日本語の音韻に似た単語があるので、語呂合わせ可能な地名は、「エロマンガ」の他にあるかもしれない。英仏の植民者が付けた地名には、望郷の念のにじみ出たものがある。首都の「ポート・ビラ」や、郊外の「モンマルトル」はその例だろう。第二次大戦で駐留した米軍が残した地名もある。野戦病院のあった「ビバリー・ヒル」や、海軍基地の「ポート・ハバナ」は、原始的な集落に戻った今は、名前負けしそうだ。ポートビラ中心部の「ナンバツ」、「ナンバツリ」は、米軍のレーダー基地 「No.2」、「No.3」の訛ったものだ。それを知ると、敵国だった日本人としては、落ち着かない気分になる。

* レイケレとクルナエナエ  (メレの伝説
* 悪酋長アタフル
* アタフルの旅  (エラコールの伝説
* 部族名の起源  (エラコールの伝説)


レイケレとクルナエナエ  メレの伝説

その昔、エファテ島に二人の女がいた。一人はレイケレで、バクラの大きな岩屋に住み、もう一人のクルナエナエは、メレ島に小屋を作って暮らしていた。

クルナエナエは賢い女で人柄も良かったが、レイケレは醜い魔女で根性もねじ曲がっていた。レイケレは、メレ島に行っては人間をかたっぱしから食ってしまったので、小さな島には、クルナエナエの他に誰もいなくなってしまった。

歳をとって食欲のなくなったレイケレにとって、食えそうな人間の残っていない筈のメレ島など、どうでもよかったのだが、ある日の夕方、その島から煙が上がっているのを見て、どんなに驚いたことか!

「何てこった、信じられないね。人間はみんな食い尽くした筈だが。まだ誰かいるよ。こりゃ、見に行かねばなるまい。」

そう決めると、さっそく支度にとりかかった。特別な場合にしか使わない魔法の杖を持って海岸に行くと、その杖で地面を三度叩いた。すると大波押し寄せて、すぐに引いた。

「今はあまり泳ぎたくないけれどね」と、老婆の魔女は言い訳をするように言った。

海に入ってずいぶん長いこと泳いだ。歳をとって力が無くなったのだ。やっと海辺に泳ぎつくと、本当に疲れきっていた。

「ちょっと休んでから、煙の出ていた小屋まで登ることにしよう。」

レイケレは砂浜でちょっと居眠りをしてから、煙の秘密を探ろうと思って、小屋に向かって登り始めた。

小屋にいたクルナエナエは、足音を聞き、レイケレが登って来るのを見て仰天した。それでどうしたかと言うと、うまいことにクルナエナエも魔法を使えたのだ。すぐさま黒い石に姿を変え、消す間のなかった焚き火のそばに座った。

少ししてレイケレが小屋に着いた。中を覗き込んで匂いを嗅ぎ、あちこち触りまわったが、誰もいなかった。腹を立てて小屋をひっくり返し、黒い石をつかむと、腹立ちまぎれに放り投げた。「どんなにうまく隠れたって、必ず見つけ出してやるからね!」とレイケレは叫び、憎しみに燃えて家に帰った。

怒りがおさまらず、翌日も小さな島に行くことにした。前日と同様、魔法の杖で地面を三度叩くと、大波が来た。引く波に乗って島に泳ぎ渡った。

今度も小屋に登る前にちょっと休んだ。クルナエナエは魔女がやってくるのに気付き、今度は木切れに身を変えた。レイケレはそれに気付かず、また腹を立てて家に帰った。

腹がおさまらず、三日目も島に行くことにした。魔法の杖で地面を三度叩いて、高波が引くと泳いで島に渡り、小屋に登る前にちょっと休んだ。前の二日と同じように、クルナエナエはレイケルの急襲を受けたが、今度も身を変えることが出来た。焼けた石からラプラプを出すときに使う熊手に化けたのだ。レイケレは何も見つけられず、今度も怒り狂って帰って行った。

四日目になった。クルナエナエは考えた。何度失敗しても戻って来たのだから、獲物を捕まえるまで、諦めずに来続けるにちがいない。

「今度はちゃんと準備をしておこう」と、クルナエナエは独り言を言った。

クルナエナエは、浜から登ってくる道に穴を掘った。昔からのやり方で、先を尖らせた棒にヒモを縛りつけ、それを引っ張って掘るのだ。長いことかかって大きな穴を掘り終えると、中に入ってみた。

「私が隠れるのにぴったりだよ。細工は隆々、これでいこう。」

そうしてから、今度は真反対のことを始めた。クルナエナエは穴の中に入り、自分を砂で埋めたのだ。砂から鼻の先だけ出して、呼吸ができるようにした。こうして身を隠して、魔女がやってくるのを待ち構えた。

レイケレは腹がおさまらず、また島に行ってみることにした。前と同じように、魔法の杖で地面を三度叩き、高波がおさまると泳いで島に渡り、小屋に登る前にちょっと休んだ。だが、歩き始めたところで、クルナエナエの鼻につまずいて転んだ。レイケレは立ち上がったが、何があったのかわからなかった。

「この道を3度歩いたけれど、転んだことはなかった。今日は転んだ。何かおかしいね。」

魔女は地面を注意深く調べ、クルナエナエの鼻を見つけた。さっき踏みつけられて、血が出ていた。レイケレは笑った。

「はゝ、見つけてやると言っただろう。手間をかけて探すまでもなかったね」と、地面に出ている鼻の先を引っ張って言った。

クルナエナエは穴から引きずり出された。レイケレは大急ぎで口を開けて、一気に食おうとしたが、クルナエナエは手を振ってそれを止めて、こう言った。「ちょっと聞いて。このまま食わない方がいいよ。あたしは砂だらけだよ。このまま食ったら歯が欠けるよ。食う前に海でよく洗った方が良いよ。」

魔女もそう思った。片方の手で獲物をつるし上げ、もう一方の手で洗った。急いで口を開けて飲み込もうとしたが、またクルナエナエが止めた。

「だめだめ、あたしはまだ砂だらけだよ。よく洗わないと歯が痛くなるよ。ちょっと放してくれたら、自分でよく洗ってくるから。そうしたら楽に食えるよ。」

食い気に気を取られて、よく考えもせずに、レイケレはクルナエナエの腕をほどいて言った。「早くするんだよ。あたしは腹ぺこだからね。」

クルナエナエの顔がパッと輝き、海に飛び込むと、きれいな小さな魚に姿を変えた。

島では、レイケレがしびれをきらしていた。長い間待っているうちに、だんだんわかって来た。

「バカにしやがって!」

怒りで気が狂ったように砂の上をころげまわり、髪の毛を引きちぎらんばかりに掻きむしった。海に飛び込んで獲物をさがしまわったが、魚になったクルナエナエは、サンゴ礁の奥に身を隠した。レイケレは、クルナエナエを探しているうちに疲れ果てて、サメに食われてしまった。

メレの島の辺りに、クルナエナエという小さな魚がいる。頭が大きくて胴に茶色の点があって、とても頭の良い魚なのだ。


悪酋長アタフル   (パンゴの民話)

ポートビラ湾は昔から魅惑的な場所だった。湾の周辺はブファの丘の上まで深い森に覆われていた。今はメレと呼ばれている小島のイメレに住んでいたのは数家族だけだった。ブラック・サンズやタガベ、テバコール、フィラやナンギレの丘も数家族が住んでいただけだ。少し離れたロアルア・ベイはマニウラと同じくらい大きく、現在イフィラ島のある小さな湾の向かい側にあった。イメレと同様、イフィラの住民も多くはなかった。

反対側のパンゴの村は南東の風を受ける位置にあるが、強風をまともにくらうことはない。その頃のパンゴは、今のエパンツイとかオールド・パンゴとか言われている場所にあった。パンゴから湾の向こう側にマラポアが見えた筈だ。村は南風が遮られる場所にあったので、夕暮れにラプラプを作る頃になると、パンゴからマラポアの炊事の煙が見え、マラポアからもパンゴの炊事の煙が見えた筈だ。それは昔のことで、宣教師たちが「暗黒時代」と言っていた頃の話だ。村人たちは深い森の暗闇の中で暮らしていた。拓かれていたのは少しばかりの畑と、たぶん、踊り広場だけだったろう。森が全てを覆い尽くし、暗闇を作っていた。

エファテ島はその頃から拓けていて、社会に秩序があった。村々には夫々ナカマルがあり、ファレアがあり、踊り場があった。そして言うまでもなく、戦いもあった。それもしょっちゅうだった。エラコールに酋長がいた。パンゴにも、メレにも独自の酋長がいた。フィラも、エラタプも、マラポアも夫々酋長がいた。マラポアの酋長はひどい奴で、他の村から恐れられていた。名はアタフルと言った。村どうしで戦いばかりしていて、しょっちゅう死人が出た。他の村では争いがあってもすぐ収まったが、マラポアは別だった。

マラポアの酋長、アタフルは本当に恐ろしい奴だった。人を食うのが大好きで、食う人間のことを「カニ」と言った。手下の戦士が二人いて、いつも側を離れなかった。アタフルが海に出たり、狩に行ったり、森で食べものを探している時は、いつも二人の戦士が見張った。アタフルは戦いを指図したが、自分自身では滅多に戦わなかった。実際に手をくだしたのは彼の二人の戦士、ビスメルメルとビスファルファルだった。二人が人を捕えてきてアタフルに差し出し、アタフルが喜んで食った。だが、戦士はパンゴでカニを追う、つまり、パンゴの人間を捕まえるのに苦労していた。ビスメルメルとビスファルファルは村の前のサンゴ礁を注意深く見張っていた。貝を拾いに来た男、女、あるいは子供でも、見つけ次第、カヌーに乗ってカニを追いかけた。捕まえるとアタフルのところに連れ帰ってアタフルが食う。アタフルのやり口は厳しく、パンゴの人口は絶滅に瀕した。

「おい、あそこにまだ一人いるぞ!行け!」

ビスメルメルとビスファルファルは出動して捕まえる。

「ワッハッハ!俺はパンゴの人間が大好きだ!肉が柔らかいからな!ワッハッハ!」

パンゴの人たちは気楽で鈍感な連中で、しばしば家族連れでカニ獲りに出かけた。アタフルがそれを見て戦士を出動させると、カヌーが満杯になるほどたくさんの人が捕まり、アタフルはご馳走をたらふく食えるのだ。パンゴの人口は日に日に減っていったが、誰も理由が分からなかった。人さらいの現場を見た者がいなかったのだ。とうとう年寄りの男と女だけが残った。人食いから免れられたのはこの二人だけだったのだ。二人は恐怖にかられて森に逃げ込んだ。森の暗闇が恐怖を倍増させ、二人は手近なものだけを食って生き延びた。時には小鳥を殺したが、海が怖いので魚獲りには行かなかった。二人は朝起きると、朽ちた木の洞穴に小便をしに行った。

ある日、鳥が木の幹をつついているうちに、二人が毎朝小便をする洞穴を見つけた。この鳥は小さいアヒルに似た鳥で、ナンビラックと呼ばれていた。二人の老人が小便を済ませると、ナンビラックは洞穴の周りを歩き回り、小便の中に翼をひろげ、その中に卵を産んだ。しばらくして卵が孵り、オスのヒナが出てきた。ナンビラックは毎日何かエサになるものを持ってきてヒナに与えた。ヒナどんどん大きくなり、ナンビラックはもう自分の手におえないと悟った。エサを運びきれなくなったのだ。

ナンビラックは言った。「ねえ、お前はもう大きくなった。とても私では間に合わない。だからあの二人にあずけよう。あの二人からエサをもらってね。大きくなって強くなるんだよ!」

親鳥に育てられてきたヒナは、人間の老人にあずけられると聞いて、一寸うろたえたが、親鳥が十分なエサを運んで来られないことも分かっていたので、老人たちのところへ行った。

「僕を一緒に暮らさせてください。僕の親になって、食べさせてください」

「良いとも!嬉しいよ。男の子だね!この子が大きくなって守ってくれる。だけど、お前の親は誰だい?」

「僕のお母さんは鳥です。ナンビラックです。あの枯れ木の洞穴に毎朝おしっこをしていたでしょう?お母さんがあそこに卵を産んで、僕はあなた方のおしっこの中で孵ったのです。だから僕はあなた方から生まれたのです。ちょっと変だけれど」

「そうかい!お前は私たちの子だよ。だから守っておくれ!」
「それはお母さんから聞きました。僕が守ってあげるのだって」

時が経ち、少年はハンサムな若者になった。若者は老人夫婦に弓と矢を作ってくれるように頼み、家の周りにいたトカゲを射て腕を磨いた。

ある日、トカゲを射ながら浜に行った。年寄り夫婦もそこにいた。

「僕の大好きなお父さんお母さん、僕は海を見に来た。海は大きくてどこまでも続いている。大きな弓を作ってください。魚を獲りたいのです」
「この弓でどうだ。だが、良く気をつけるのだよ。潮が引いたらサンゴ礁で魚を獲るが良い。だが、湾のこちら側から出てはいけない。パンゴの岸に近い方に行ってはいけないよ」
「僕はもう大きくなったから、大丈夫だよ」

彼がパンゴ岬まで行かないうちに、アタフルが彼を見つけた。

「おい、戦士たち!パンゴのサンゴ礁にカニがいるぞ。まだ一人いたぞ!すぐ行け!それゆけ!」

ビスメルメルとビスファルファルはカヌーに飛び乗ってパンゴのサンゴ礁に行き、隠れてスエプスを監視した。少年は魚を獲り、それを蔓で結わえて家に帰るところだった。ビスメルメルとビスファルファルは跡をつけた。スエプスは家に帰り、両親の足もとに魚を置いて得意げに言った。

「どう、大きな魚でしょう」
「どこまで行ったの?」
「今日はパンゴ岬の反対側まで行きました」

母親が子供を叱りつける間もないほど素早く、ビスメルメルとビスファルファルが隠れていた場所から飛び出した。

「何てことだ!スエプス!こいつらはアタフルの手下だぞ!」

「僕を捕まえに来たな。そうか、それは好都合だ。お前が一番強い奴だからな。だが、僕を育ててくれたこの二人と最後のごちそうを食べるまで待ってくれ。二日たったら来てくれ。そうしたら一緒に行ってやろう」

二人の年寄りは悲しみにくれながら食事の準備をして、子供と一緒に食べた。

「僕の大好きなお父さんお母さん、山へ行ってください。僕はここでアタフルの手下を待つ」
「息子よ、お前をあの人食いのところに残して行く前に、先祖から伝わるこのこん棒をあげよう。これだ。持っていなさい」

二人の老人は森の中へ行き、スエプスは座ってアタフルの兵士が来るのを待った。

戦士たちが来ると、スエプスが言った。「待っていたよ。一緒に行こう」

三人が浜辺に着くと、スエプスが言った。「カヌーを出してよ。僕が真ん中に座る。一人は僕の前に、もう一人は後ろに。僕は漕がないよ」

三人は海に出た。サンゴ礁を通り過ぎる時、スエプスはこん棒で後ろの戦士の頭を殴り、前の戦士の頭もかち割った。二人とも海に落ちた。死体が浮いたので、それをカヌーに縛り付けて、カヌーを海に向けて強く押し出した。漕ぎ手のいないカヌーはマラポアの砂浜に流れ着いた。

カヌーが来るのを見てアタフルが言った。

「二人の戦士は俺のカニを連れて来たかな、どれどれ、行ってみよう。あれっ、何てことだ!俺の戦士が死んでいるぞ!パンゴのカニは全部退治したはずだが。一匹残っていた!俺の戦士を殺した奴は誰だ?どいつだ?おい、レレパ、ウグナ、エマオ、エマエの酋長たちに言え。エファテの者どもにも全員に伝えろ。すぐ集まれと。俺は怒ったぞ!聞いたか!俺はカンカンだぞ!俺はこんな目にあったことはない。パンゴの最後のカニが俺の手下を殺した。仇を討ってやる!大木を10本切り倒して大きなカヌーを10艘作れ。出来上がったらパンゴの最後のカニを殺しに行くぞ!」

一方、スエプスは10本の硬い木を切り倒してから、パンゴの丘で一番高いエッセーレに登った。そこからはマラポアに出入りする人の動きが全部見えた。突然、10艘のカヌーが猛り狂った男たちを乗せて来るのが見えた。スエプスは祖先に祈った。

「私を育ててくれた祖先の皆さん、僕を助けてください。祖先の皆さん、助けてください!」

スエプスはエッセーレの丘からカヌーに向けて大きな石を投げた。石にあたった男たちは即死し、生き残った者はサメに食われた。2艘のカヌーが残り、1艘にアタフルが乗っていた。アタフルが岸に近づいた。スエプスは再び祖先に祈った。

「僕を育ててくれた祖先の皆さん、僕を助けてください。祖先の皆さん、助けてください!」

スエプスは2艘のカヌーに向けて石を二つ投げた。2艘とも沈み、サメがやって来て、乗っていた男を食い始めた。

サメはアタフルをエッセーレの丘のふもとに向けて押し出した。スエプスはそれを見に行った。

「さあ、アタフル、パンゴの最後のカニを食いたいか?」
「助けてくれ、スエプス!後生だから助けてくれ」

スエプスはこん棒を持ってアタフルの頭上に振りあげた。

「パンゴの人たちを皆殺しにしたのはお前だ。死ね」
「スエプス、殺さないでくれ。俺が食った分をお前に返してやるから、俺を生かしておいてくれ」
「それならアタフル、男の子を100人、女の子を100人、俺の村によこせ。さあ、行け」

アタフルは無念そうな顔でマラポアに戻って行った。そうして人々に言った。

「レレパ、ウグナ、エマオ、エマエの者ども、それからエファテの者ども。パンゴの村に男の子を100人と女の子を100人、くれてやるぞ」

アタフルはスエプスとの約束を守った。男の子と女の子たちは結婚してパンゴの村の住人になった。村の人口を元通りにしたのは、鳥のナンビラックの息子だったのさ。


アタフルの旅  エラコールの伝説

その昔、ヨーロッパ人が大きな帆船でこの列島にやって来た頃、いや、もっと後の、宣教師が「よき知らせ」をもたらしに来て、島の昔からの考えを急に変えたり壊したりしようとして殺された頃や、新しい文明がメラネシアの島々に浸透した頃でも、エラコールは今ほど大きな集落ではなかった。1858年にマッケンジー牧師がやって来た頃でさえ、エラコールには、小さな小屋が数軒あっただけだった。だが、現在ベルビューと呼ばれている丘の上には、エパック、エプカ、ブファと呼ばれた大きな村があった。

中でもブファが一番大きな村だった。エファテの他の村と同じ様に、ブファの踊り広場には集会小屋(ファレア)があった。カヌーをひっくり返したようなかたちで、葦でふいた屋根の下には、練習用のタムタムが三つ置いてあって、ブタを犠牲にして行う儀式を告げる時にも叩かれた。ブファでは、石垣の後ろの囲いでブタをたくさん飼っていた。酋長たちはそれぞれブタの囲いを持っていたし、アタヴィと呼ばれる助手たちも、小さな囲いを持っていた。今は崩れかけた壁が、昔日の面影を残している。

ブファに、アタフルという名の大酋長がいた。彼はなかなかの実力者で、何でも知っていたが、その情報はアタヴィに集めさせたものだった。だが、この酋長にも一つだけ分からないことがあった。それは、夜毎に天空から巨大な稲妻が落ちて来ることだった。雷鳴がとどろくと、アタフルは丘に登り、水平線上の不思議な現象を眺めた。

「稲妻はいつもエロマンゴ島の方からやってくる。わけがわからぬ。俺は実力者で何でも知っているが、この現象だけは見当がつかぬ。いったいあの稲妻はどこから来るのだろう?」

「酋長、ご自分で見に行ってはどうでしょう。神様たちがエロマンゴ島に踊り広場を作ったのかもしれませんよ。」

「アタヴィよ。お前の考えは見当違いだ。この世で一番強いスプウェ・ナ・ヴァヌアの神様は、今はエマオにおいでなさる。エロマンゴからはとっくの昔に出られた筈だ。アタヴィ、おまえは間違えているぞ。」

「やっぱり、酋長が行って見た方がよいと思いますが、、」

「アタヴィよ。もう一度だけお前の言うことを聞いてみることにしよう。これまでお前の言ったことに間違いはなかったからな。エラコールの衆に、俺が出かける準備をするように言ってくれ。俺は明日の朝エロマンゴに渡る。薬草と毒薬の準備をしてくれ。そして俺を一人にしておいてくれ!」

アタフルは水平線上の稲妻を見続け、雷鳴の力に怖れを感じていた。彼は一晩中考え続け、遂に眠らなかった。

「俺の笛を持ってきてくれ。」

男の子が竹を10本束ねて作った笛を持ってくると、アタフルは吹き始めた。夜通し笛を奏でながら思いを巡らせて構想を練った。翌朝早く、ブファの酋長はエラコールの浜に行った。彼はヤシの実を二つに割り、その片方で小さな舟を作った。アタフルは大酋長だったので、精霊を呼び出すことが出来た。そして言った。

「俺の体を小さくしてくれ、蚤のように小さくしてくれ。」

アタフルは風船が膨れるように大きくなると、突然、空気が抜けたように縮まった。蚤のように小さくなったアタフルは、ヤシの殻のカヌーに乗って、エロマンゴ島へと漕ぎ出した。航海の途中、エロマンゴ島で稲妻が光るのを見た。近付くにつれて稲妻が明るさを増し、雷鳴も強くなった。突然、アタフルが乗ったヤシの殻のカヌーは海を突っ走り、エロマンゴの海岸に打ち上げられた。小さい姿のアタフルが上陸して精霊を呼ぶと、元の大きさに戻った。稲妻が空をつんざき、それが進むべき方角を示した。丘に登ると、突然視界が開けた。それは何とも不思議な光景だった。

一羽の大きなナウィンバが、月光と霧につつまれて立っていた。そのナウィンバは王者の威風をたたえていた。まわりを小さなナウィンバが飛び交い、王者が思いつく様々な用事をこなしていた。アタフルは、煙幕のように立ち込める霧の中を、クロトンの藪に身を隠しながら近づいて行った。すると、王者を守る護衛役と思われるナウィンバが、アタフルの方に進んできた。

「見かけないお方ですね。何かご用?」

「お前たちの酋長に会って話がしたい。俺はエファテから来た。」

「酋長に会うのはかまわないけれど、注意した方が良いわよ。あたし達の酋長は、他の島から来た男の人がお嫌いだから。」

アタフルはクロトンの陰から出て、奇妙な光の方に近付いた。その時、ナウィンバの女王が羽をひろげて大声で鳴いた。稲妻が天空を駆け、地面が揺れた。

「これが奇妙な夜の現象の正体だ!エロマンゴの上空で光る稲妻はこれだ。分かったぞ!」

アタフルは稲妻がまぶしくなり、少し後ろに下がった。女王を守る若い女衛士のナウィンバのそばまで行き、その目を見た。若いナウィンバは顔をうつむけた。男にまともに見詰められたのは初めての経験だった。そしてその男に一目惚れした。

アタフルは海岸に戻って精霊を呼び、身を小さく変えた。ヤシの殻のカヌーに乗ってエファテに向けて漕ぎ、エラコールに着くと、ブファの酋長として周辺の人たちを呼び集めた。ブファやエパック、エルック、エルナンギレの村人でナカマルはいっぱいになった。

「皆の衆、聞いてくれ。俺はエロマンゴから戻ったところだ。あの空を飛び交う稲妻の出場所を探りに行ったのだ。正体が分かった。俺はエロマンゴで女王に遭った。そうだ、女なのだ。その女は長い翼のナウィンバだ。俺たちと同じように、女王の周りには助手のアタヴィがいた。これも女のナウィンバで、衛士役もいるし、女王の羽根を整える役の者もいる。とにかく、たくさんいる。」

「アタフル、あの稲妻について話してくれ。」

「女王が伸びをして羽根と爪を広げると、羽根が火を吹いて雷鳴が轟く。羽ばたくと、それが稲妻になるのだ。」

時が経った。ある夜のこと、ブファの大酋長は家で妻と寝ていた。酋長に恋心を抱いた若い女のナウィンバが島を抜け出し、夜の闇に乗じて、恋する酋長の家に忍び込んだ。羽根を使って酋長の妻をそっとマットからどけると、その場所に入り込んだ。夜毎にそれが繰り返された。若い女ナウィンバは、誰にも知られることなく、酋長の妻の場所を占めたのだ。そうしてナウィンバは孕み、腹が大きくなって高く飛べなくなった。アタフルは、自分以外に入ることが許されない小さな小屋を持っていた。その小屋には、酋長が魔力を発揮するための秘密の薬草が入れてあった。ナウィンバは低く飛び、ナタンゴラの葉の間に潜り込んで巣を作った。そこに卵を二つ生むと、大きく羽ばたいてエロマンゴの女王のところへ帰って行った。

ある日、ナウィンバが戻ってきた。その時、二つの卵が孵り、男の子が二人出てきた。母になったナウィンバは、ブファの酋長と妻が畑に出ている間に、子供たちに食事を与えた。子供たちは大きく育った。

母親のナウィンバが兄弟に言った。「お前たちは大きくなった。私はもういなくなろう。アタフルが食べさせてくれる。お前たちが自分で説明するのだよ。洗いざらいに話すのだよ。きっと分かってくれるから。」

ナウィンバは、二人の男の子を残して飛び去った。アタフルと妻は畑から帰って、男の子たちを見つけた。

「ここで何をしているのだ?」
「僕たちの母さんは、エロマンゴのナヴィンバです。母さんは行ってしまった。僕たちを養子にしてください。」

ブファの大酋長は大いに喜んだ。二人も息子が出来たのだ。しばらく家の中に匿い、時を選んで村人たちに知らせることにした。そして、タムタムを叩いて村人を集める時が来た。タムタムを聞いた村人たちがナカマルに集まった。

「皆の衆、ヤムイモ、タロイモ、バナナ、何でもたくさん採ってきてくれ。薪も集めてきてくれ。ブタを一人一匹連れてきてくれ。祝いをするのだ。とても大がかりな祝いだぞ。俺は嬉しいのだ。」

「何のお祝いでしょうか?」
「すぐにわかる。お前たちの酋長に聞いてくれ。」

村人たちは言われたとおりにした。大きな祝いの準備だ。準備が整うと、大酋長はまた全員をナカマルに集めた。

「妻が来るまで待ってくれ。」

少ししてから、アタフルの妻がナカマルに入って来た。後ろに二人の少年がいた。

「あの子たちは何者なのだろう?」
「これまで見たことのない子だな。」

「皆の衆、この二人は私の息子だ。兄はロエ、弟はマラクだ。喜んでくれ。そして仲間に入れてやってくれ。」

アタフルと妻は、兄弟が結婚するまで大事に育てた。二人は結婚し、ロエには二人の男の子が、マラクには二人の女の子が生まれた。だが、ロエの子供の一人は蛇の姿だったので、そのことが皆の心配事だった。

ある日、ロエがマラクに言った。「なあ弟よ、俺の長男とお前の長女を結婚させたい。次男とお前の次女もそうさせたいのだが。」

この話を聞いたマラクの長女が言った。「私は蛇となんか結婚したくない。結婚するなら本物の男としたい!」

それを聞いて、妹が言った。「心配ないわよ。ロエ叔父さんの長男が蛇だから結婚したくないと言うのなら、私が結婚してあげましょう。姉さんは、私と結婚することになっている弟の方と一緒になれば良いわ。」

アタフル大酋長は、ロエの男の子たちとマラクの女の子たちが結婚することを喜んだ。これで全員がハッピーになったのだ。皆は踊った。

ある日、アタフルは村人たちに、ガジュマルの巨木の下の広場を掃除するように命じた。大きな祭りをする為だ。

弟が蛇の兄に言った。「兄さん、妻たちを広場のダンスに連れて行かなければ。」
「俺の妻も連れて行ってくれ。お前も踊ってやってくれ。なにせ俺は蛇だからな。」

ダンスが終わると、蛇が妻に言った。「ダンスは楽しかったかい?」
「楽しかったわよ。とても素敵だった。けれど不思議なことがあったわ。とてもハンサムで白い肌の男が広場に来たのよ。長い間踊っていたわ。皆の注目を集めたのよ。とてもハンサムなんだもの。でも、突然いなくなった。誰も知らない人だった。」

村で二度目のダンスがあった。この時も蛇は家に残り、妻はダンスに行った。皆が踊っている間に、蛇はハンサムな男に変身した。髪に花をかざり、ベルトにクロトンの葉を付け、踊りに出かけた。ダンスが終わる前に、男はその場を去って蛇に戻った。そして寝た。

次の日、蛇は妻に聞いた。「ダンスは楽しかったかい?」
「すごかったわ。またハンサムな男が来たのよ。彼のダンスも素敵だったわ。だけど、あの人は誰なのだろう?」

別の日、またダンスがあった。いつものように蛇は行かなかったが、妻は何かを疑っていた。

妹が姉に言った。「いつも私が踊っている間、夫は家に残っている。一緒に居てみよう。」

女は家に戻ってそっと隠れ、夫を注視した。蛇は皮を脱いでハンサムな若者に変身した。若者が踊っている間に、妻は脱ぎ捨てられた蛇の皮を燃やしてしまった。そうしてから妻はダンスの場に戻って踊った。いつものように、ダンスが終わるちょっと前に、若者は家に帰った。だが、家にあったものは、一つかみの灰だけだった。

妻が戻って言った。「あなたは本物の男になったのよ。蛇は死んだのよ。さあ、踊りましょう!」


部族名の起源   エラコールの伝説

その昔、ロイという名の男が二人いた。エファテのツクツクでは、ロイとは、偉大な酋長、という意味である。

男の一人はロイ・レプという名で、最年長の酋長、最も偉い酋長のマリク・ロイだった。もう一人はロイ・ムルと呼ばれたが、それは、若い酋長、副官の意味である。

ロイ・レプには息子が一人いたが、それは蛇の姿をしていた。ロイ・ムルには二人の娘がいて、二人とも普通の人間だった。ロイ・レプは息子の蛇を結婚させようと考えた。彼はロイ・ムルに会って、娘の一人を嫁に欲しいと言った。ロイ・ムルは姉の方をやった。

ロイ・レプは、嫁を家に連れ帰って言った。「なあ、お前の夫が蛇だということは知っているな。だが会ったことはないだろう。あいつはガジュマルの枝に住んでいる。何か食いものを持って行ってやってくれ。行けば樹から下りてくる筈だ。あいつがお前の膝に頭を乗せて物を食っても、怖がってはいけないよ。」

新妻は言われたとおりに食事を作った。だが、舅にたしなめられてはいたものの、蛇が樹から下りて近寄ってくると、恐ろしさに負けて、実家に逃げ帰ってしまった。

ロイ・レプはまたロイ・ムルに会いに行き、妹の方を息子の嫁にもらえないかと頼んだ。色良い返事だったので、妹を家に連れて帰り、姉にしたのと同じ注意を与えた。新妻は食事を作り、夫が樹から下りて来ても怖がらなかったので、蛇は食事をすることが出来た。

しばらくして、蛇は妻に海へ泳ぎに行こうと言った。蛇は海に入ると、妻から見えない所まで泳いで行き、そこで皮を脱いで男の姿になった。男は妻のところに戻ったが、妻は、それが蛇だった夫と分かる筈がない。だが、男はどうにかして自分が変身したことを説き伏せ、二人はとてもハッピーになった。二人はマリク・ロイの家に行き、一部始終を話した。酋長はおおいに喜び、祝いの宴を開くように命じた。

数か月が経ち、女は妊娠した。ある日の夕方、女は夫と共にカヌーで魚獲りに出かけた。だが、二人が出かけるのを、女のリセプセプが見ていた。リセプセプというのは、人間の元祖みたいなもので、耳が長く、もしゃもしゃ髪で、毛のないアフリカの猿のような姿をしている。あいつらは森の中に裸で住んでいて、根や葉や果物を食っている。島の内陸部にもいるそうだ。リセプセプには不思議な能力があるが、攻撃的になることはめったにない。

そのリセプセプは泳いでカヌーに追いつき、こっそりとカヌーに乗り込むと、夫が気付かないうちに妻を舟から突き落とし、妻になりすまして座った。女のリセプセプも妊娠していた。夫は二人が入れ替わったことに気付かなかった。

突き落とされて海に落ちた妻は溺れなかった。潮の流れに乗ってエマエ島に流れ着き、島の男に発見されて、その男と結婚した。女は男の子を生み、エマエの夫との間にも3人の男の子が生まれた。4人の子供たちは成長した。

ある日、4人の兄弟は、エマエの子供たちと一緒に、ヤムイモを掘りに出かけた。4人は赤いヤムイモを採り、他の子供たちは白いヤムイモを掘った。皆でラプラプを作ると、ラプラプは全部赤くなった。赤いヤムイモを掘ったのは4人の兄弟だったので、4人は赤いラプラプが全部自分たちのものだと言い張った。他のエマエの子供たちは憤慨した。

「お前らはよそ者だ。俺たちのヤムイモを食う権利はない。お前らが来たところへ帰れ。」

4人の兄弟は家に帰って、母親にあったことを話した。そして尋ねた。「僕たちはどこから来た者なの?」

母親は子供たちに一部始終を話し、エマエから去ることにした。兄弟に大きなカヌーを作らせ、帆にロイ酋長の旗印を掲げた。4人の子供の内、2人をエマエの夫に残し、ロイの息子ともう一人を連れてエマエを出た。

カヌーはエファテのツクツクの近くに着いた。マリク・ロイの息子の妻は、例のリセプセプだが、近くの小屋で産気づいていた。マリク・ロイは、自分の旗印を掲げたカヌーがやってくるのを見た。それで、やって来たのが本物の妻で、もう一人は、入れ替わったニセ者と気付いた。すぐさま、リセプセプの産屋のまわりに乾いた葉っぱをまき、火をつけた。小屋はまる焼けになって、リセプセプがいた場所には、大きな石だけが残った。

カヌーに乗っていた者たちは大歓迎を受け、マリク・ロイは本物の妻と再会することが出来た。宴会が催された。妻は一部始終を話し、夫と再び結ばれた。

その頃、エファテにはたくさんの酋長がいた。だが、ツクツクのマリク・ロイは圧倒的に偉い酋長だったので、他の酋長たちは彼に従った。何か大きな祭りごとがあった時に、一番たくさんブタを殺した酋長が一番偉い酋長なのだ。マリク・ロイはいつでもそうだった。ブファのマリク・メルマン酋長はマリク・ロイよりもたくさん部下を持っていたが、ランクの上ではマリク・ロイに及ばなかった。

嫁の帰還を祝い、マリク・ロイは大きな宴を張った。彼はエファテだけでなく、周辺のエマエ、トンゴアの島々からも人を招いた。招かれた客たちは、ココナツ、ヤムイモや魚など、たくさんのご祝儀を携えて集まった。その返礼として、マリク・ロイは集まった客たちに名前を与えた。それが部族の名称のとなって、今日まで伝わっているのだ。