二人のリンデンダ

マレクラ島にたくさんある村の一つに、ユムバンナという村があった。この村にリンデンダというありふれた名前の女が二人いた。実を言うと、ヤシの木がこの世に出たのは、この女たちの仕業だったのだ。二人はいつもアンブウェブワというお決まりの場所で小便をした。ある日のこと、アンブウェブワに木が生えた。二人はこの若木に小便をかけて育てた。創造の神秘も、このあたりの島では、こんな話で伝わることが多いのだ。

時が経ち、その木は空に向かって大きく翼を広げるように育った。二人の女はこれをナマトウ、つまり、ココナツと名付けた。そして、自分たちが付けた名前を当てた者がいたら、その人と結婚しようと誓った。

二人は村に行ってこう言った。「新しい木が生まれました。その木には丸い実が生ります。木の名前を最初に当てた人を、私たちの夫にしましょう」

新しい木の誕生と名前当てゲームのニュースは、村から山奥へ、そしてマレクラ西南端のトマン島まで伝わった。とにかく、リンデンダは二人とも大変な美人だったのだ。だが、この島の住人には謎を解く知識も想像力もなかった。「それはナカタンボルだろル、いや、ナヴェレだ、ナカヴィカかな、それともナンドウレダレレ、はたまたナタポアか?」と人々は言い争った。

だが、そんなありふれた木ではない。何しろこの世に初めて現われた木なのだから、簡単に言い当てられる筈がない。マレクラのあちこちから答えが届いたが、二人のリンデンダを勝ち取る程タレントのある男は現われなかった。

このニュースはイマラルの有名な一族にも届いた。その5人兄弟の一人が例のアンバットだ。その頃アンバットは重い病に臥せっていた。高熱で体中が痛み、歩くこともできなかった。彼は他の4人の兄弟に、二人のリンデンダが住む村に行ってみるように命じた。兄弟たちは川を渡り、山を越え、やっとユムバンナに着いたが、そこは自分の答えを携えて集まった男たちで一杯だった。兄弟たちもその木を取り囲み、高いところに生っている不思議な果物を見上げながら、この不思議な気はいったい何だろうかと考えた。だが答が出る筈もなく、空しく家に戻った。

弟のアブンララは、寝たままの兄に、ユムバンナの村の様子や不思議な木の説明をした。アンバットはアブンララと他の兄弟に、すぐリンデンダの村に戻って、もっと良く調べるように命じた。

翌朝、4人の兄弟がまたユムバンナに出かけると、残ったアンバットは、苦痛に顔をしかめながら身を起こした。彼の体は病に蝕まれ、皮膚は蚊に食われてボロボロになっていた。彼は苦しげに森に入って行き、ナルボーと名付けられた木を選ぶと、幹を二つに割ってその間に身を入れた。すると、彼の痛みは体から離れて木に遷った。ナルボーの木から出ると、彼の病気は去り、皮膚も再生していた。元のハンサムなアンバットに戻った彼は、新しいナンバスでペニスを覆い、新しいベルトに新鮮なクロトンの葉を飾った。こうして健康で堂々たる風格を取り戻したアンバットは、ユムバンナへと向かった。

ユムバンナに着くと、すぐさま有名になった木のところへ行った。集まった人たちはアンバットの勇姿を讃えた。大勢の中にアンバットの兄弟たちもいたが、最初はアンバットだと判らなかった。あんなに重病でひどい姿だったアンバットが、病癒え、こんなに早く山を越えてやって来るとは、全く思いもつかなかったのだ。だが、声を聞いて間違いなくアンバット本人と判った。

アンバットは集まった群集に向かって言った。「この木はナマトウ、つまりヤシの木だ」

ポカンとしている群集を前にして、二人のリンデンダが言った。「そうです。私たちはこの人と結婚します」

集まっていた人たちは驚くと同時に嫉妬を感じたが、アンバットは得意満面だった。彼は弟のアブンララにその木に登るように命じた。アブンララは木のてっぺんに登り、生っている実が美しいことに驚き、それに手を触れた。アンバットはその手を除けるように命じてから矢を射た。すると不思議なことが起きた。射抜かれた実が上下ひっくり返ったのだ。その時から、ココナツの実は空を向いて生るようになった。

アンバットはアブンララに実を採るように命じた。実は一つまた一つと地上に落ちた。木から降りたアブンララは、アンバットに命じられたとおり、尖った棒で外側の皮を取り除き、中の殻を石で割って白い果肉を口に入れて叫んだ。「アンバット一族とナカマルに眠っている祖先の頭蓋骨に賭けて言う。これは美味いぞ!」

集まった人たちはココナツに殺到し、味をみて全員が賞賛した。二人のリンデンダの求めと全員の総意で、アンバットは祝いに豚を殺す栄誉を得た。殺された豚の皮が剥がされ、内臓が取り出された。アンバットは豚の頭を兄弟たちに与えて家に帰した。アンバットは、二人のリンデンダに、人々の好奇心を避けるように回り道をさせて、森の奥のロヒンタンジと呼ばれる小屋に行かせた。そうしてから、病の痛みを吸い取ってくれたナルボーの木のところに行き、他人に見られないように隠し持って来た豚の心臓を、その葉の中に包み込んだ。

偶然アブンララがその場に通りかかり、アンバットに何をしているのかを訊ねた。「これは病気を食ってくれるものだ。腐った木ならどこにでも生える」。アブンララは腹が減ったので何か食いたいと言った。アンバットは強い要求に負け、二人で食い始めた。ようやく二人の兄弟は別れたが、アブンララには、アンバットに復讐したいという気持ちが湧いていた。

帰り道、アブンララは二人のリンデンダの隠れ家を見つけた。彼はリンデンダの片方を自分の妻にしたくなって、他の兄弟たちに相談を持ちかけた。だが、その前にアンバットを殺してしまっても良いのだ。トマン島の近くのさんご礁には、ナマンピグという巨大な貝が棲んでいる。アンバットを海に潜らせて、その巨貝を獲るようにしむければ、それで万事が済むかもしれない。

思い立ったが百年目、先ず兄弟たちはナヴェレの実を集めた。そうしてからアンバットを探した。アンバットはすぐ見つかったが、兄弟たちに悪意を感じたので、彼等と一緒に行こうとしなかった。だが兄弟たちがしつこく言い張ったので、アンバットは嫌々ながら従うことにした。出かける前、彼は二人の妻に危険を知らせた しっかりと家の戸締りをして、もし家に近づこうとする鳥がいたら射落とすようにと言い残した。だが彼が去ると、二人の女は家の外に出て、丈夫な蔓を切って小屋に持ち込んだ。

5人の兄弟は予め決めてあった場所に向かった。最初の男が潜ると、口いっぱいに白い肉を銜えて、得意満面で浮上した。だが、巨貝の白い肉に見えたものは、実は予め集めておいたナヴェレの実だったのだ。それが作戦だった。兄弟たちは代わる代わる海に潜って白い肉をほおばり、「この貝肉は美味いぞ」と言いあった。

アンバットの番になった。彼はこのトリックに引っかかった。何も知らずに潜った彼は、巨貝に手を伸ばした。巨貝はパチン!と蓋を閉じた。アンバットは死んだ。

カヌーに残った4人の兄弟は、誰が二人のリンデンダを手に入れるかでケンカを始めたが、二人で一人のリンデンダを分け合う、ということで話がついた。4人は海岸に上がり、2人のリンデンダの小屋へ急いだ。だが、小屋ではとんでもないことが起きていた。2人のリンデンダは、一緒に蔓で首をくくっていたのだ。4人の兄弟はリンデンダの亡骸を小屋に埋葬した。それからというもの、この場所はタブー(立入禁止)になった。これが南マレクラに最初のココナツが現れた時の話だ。