岩になったウォタニマヌ

ウォタニマヌは、マタソ島のすぐそばの海面からそそり立っている岩である。だが、そうなる前は、エロマンゴ島にいた。地殻変動の時代に、エロマンゴの海から生まれたのだ。エロマンゴでは、浜辺で魚を獲ってのんびりと暮らしていた。ある日、サンゴ礁で魚を獲っていた。巨貝のナタラエを見つけ、海底の岩からはがそうとしたが、挟まれてしまった。ウォタニマヌは怒った。なぜ怒ったかというと、彼が怪我をしたにもかかわらず、近くにいたエロマンゴの男たちは、ダンスのことしか頭になかったからだ。ダンスの音楽が気に障り、ダンスそのものにも腹が立った。彼は赤いブラオの葉のナヂビボウをちぎって、怪我をしたところを縛った。痛さに耐えながらダンスを見ていたが、タムタムが近隣の者まで呼び始めた。そのタムタムに腹が立った。それで、彼はカヌーを漕いでエファテの方へと去ったのだ。

カヌーには、彼の従者と、二人の妻、ワノブとオノが乗っていた。エファテに着くと、プラリの湾に入った。マニウラの隣の小さな村のプラリだ。そこでも、村人たちがタムタムを叩いて踊っていた。ウォタニマヌはプラリのダンスにも腹を立て、もう少し先のエパウに行った。そこで気が安まった。もううるさい音はなかった。大きなカヌーを浜につけた。そしてある日、魚獲りをしながらエマエに行った。

エマエの酋長にシーナと言う娘がいた。きれいな娘だった。シーナは食事を作るために浜で潮を汲んでいた。ウォタニマヌは娘を見て、話かけようかと思った。

「きれいな女だな。どうしようか?」

だが、その時は何もせず、カヌーに魚をいっぱいに積んでエパウに戻った。次の日、同じ場所に魚獲りに出かけ、同じ娘を見た。この時は話しかけた。

「あんたは昨日よりきれいだね。昨日は話しかけるのをやめたのだが」
「あなたが気に入ったわ」と女が答えた。
「だが、俺は遠くから来た者だ」
「私がほしいなら、家に来てお父さんにそう言ってください」
「わかった、行こう」

こうして、ウォタニマヌはエマエに住みついて、魚獲りを続けた。エマエの酋長は、自分の地位を誰か他の者に譲ろうと考えていた。彼は手下の者たちを使って畑をいくつも開墾させ、島にいた動物を家畜にするための大きな囲いも作らせていた。だが酋長は、ウォタニマヌが畑仕事もしなければ、豚の世話もしようとしないのに気付いていた。自分の命令に従わないような男と結婚した娘を咎めた。

女は父親に言われたことを夫に言い、グータラに暮らしていることを責めた。

「わかったよ。じゃあ、畑の草でもむしりに行くか」と夫は言った。

二人で畑に行って、ちょっとだけ草むしりをしたが、潮が引くのを見て、ウォタニマヌは魚獲りに行ってしまった。

父親は娘に二人で何をしていたのかを聞きただした。

「草取りをちょっと、それから魚獲り」

父親は義理の息子のグータラぶりをなじり、娘はそれを夫にそのまま伝えた。

「ナルアン(昇格の行事)の準備もしないような怠け者と一緒になったのは、いったいどういう了見だ?だって」

ウォタニマヌは妻を連れて、前の日にむしった草を燃やしに出かけた。夜のうちに夫の手下たちがエパウから来て、草取りを済ませていたとは、妻が知るはずもない。畑がすっかりきれいになっているのを見て、妻は驚いた。

「誰がやったの?」
「おれだよ!」

ウォタニマヌは草をちょっと燃やしただけで、また魚獲りに行ってしまった。父親は娘から夫の様子を聞き、苦言を重ねた。娘はそれを夫に伝えた。

「畑に行ってヤムイモを植えよう」というのが夫の答えだった。

畑に行ってみると、草はすっかり燃やされて、きれいになっていた。二人でヤムイモとサトウキビとバナナを一本ずつ植えたところで、ウォタニマヌはまた魚獲りに行ってしまった。女は見たとおりのこと父親に話した。

「誰がきれいにしたのかな?」
「自分だ、って言っていたけど」
「自分でだって?何を植えたのかな?」
「ヤムイモとサトウキビとバナナを一本ずつ」

翌日、ウォタニマヌは妻を連れて畑に行った。畝が鋤かれ、野菜がきれいに列になって植わっていた。妻は驚いて聞いた。「誰が植えたの?」

「おれだよ」
「いつ?」
「夜のうちだよ」

妻は夫が手下を使っていることはまだ知らなかった。父親には夫が言った以上のことは何も説明が出来なかった。

畑の野菜が見事に育ち始めたが、父親は今度は豚を飼わないことにブツブツ言い始めた。妻がウォタニマヌに言った。「みんな豚を飼っているのに、うちは飼わないのね!」

ある日、彼は妻を連れて野菜に支え杭を立てる仕事をした。数本しか立てなかったが、翌日行ってみると、どの野菜にもぜんぶ支え杭がしてあって、草もきれいに取ってあった。娘はまた父親に報告した。二人は全くわけがわからなかった。

ウォタニマヌは手下の者たちを使って豚を囲う柵を作った。

親が娘に言った。「豚もいないのに、囲いを作ってどうするんだろうね?」

妻からそう聞いて、ウォタニマヌは手下の者たちに仕事を命じた。夜のうちに豚の鳴き声が聞こえ、朝になって妻が囲いを見に行くと、牙が円く巻いた立派な豚がたくさんいた。

「この豚は誰のものなの?」
「俺達のだよ。昨夜のうちに買ったのだよ」

娘は父親を連れて行ってそれを見せた。

ある日、その行事の日取りが決まり、村人たちが畑から畑へと収穫をして回った。サトウキビを刈り、ヤムイモを引き抜くのだ。他の男たちは両手でやっと引き抜くのに、ウォタニマヌは片手で軽がると抜いてみせた。彼は自分の畑には最後に収穫に来るように頼んだ。他の畑を全部合わせても一日で収穫が済んだのに、ウォタニマヌの畑だけで三日もかかった。

次に豚をナカマルに集めることになった。今度も、ウォタニマヌは自分の豚を最後にしてくれと頼んだ。他の男たちが一匹を二人がかりで天秤棒で担ぐのに、ウォタニマヌは豚の脚を一本つかむだけで軽がると担いだ。エマエ中の豚を集めるのに一日あれば十分だった。次の日、ウォタニマヌの豚を集めることになった。ウォタニマヌが手を出さなかったので、村人が総がかりで三日もかかってしまった。その翌日、豚は全部殺されて肉が一か所に集められ、エマエの人たち全員に分けられた。そうしている間に噂が拡がった。

「俺たちが束になってもあの男にかなわない。いったいあいつは何者だ?」
「あいつのことは何にも知らないぞ」
「ここの出の男ではないな」

昇格の儀式は二週間続き、皆はそれぞれ引き出物をもらって家に帰って行った。ウォタニマヌは妻に言った。「酋長は俺をグータラと呼んだが、これだけのことをやったのは、この俺だぞ。それなのに、村の連中は俺のことをよそ者だと噂している。どこの馬の骨かと言っている奴もいる。俺は出てゆく。義父に言ってくれ。お前とは別れる。俺は他所で住む場所を探す」

彼は手下と二人の妻を連れて去った。酋長の懇願を聞かず、酋長の位を譲るという申し出も断ったのだ。去る時に、ウォタニマヌは妻の一人を殺してサンゴ礁に供え、それはボンガロアの岩に変わった。彼には残った一人の妻と手下たちが従った。去る時にボンガロアの岩がウォタニマヌに語りかけた。

「まだ見えますよ。もっと遠くへ行ってください」

マタソのアリカオウ村の近くに着いた。その頃、ここの住民はタムタムを叩かず、竹を棒で叩くナタレという楽器で踊っていた。彼はその音を聞いて心地よくなり、ここで住みたいと言った。彼のの噂はもうここまで届いていたので、酋長たちは彼のことをよく知っていた。

「ここで居て良いが、暮らすのは村外れにしてくれ。村人が怖がっているから」
「そう、もうちょっと、もうちょっと向こうへ」

ウォタニマヌは遠ざかりながら聞いた。
「ここでいいか?もうちょっと下がるか?」
「いや、そこで良い。そこにいてくれ」

そこでウォタニマヌは岩になり、今もそこにいる。手下の者や小鳥たちも一緒だ。