今回の民話の故郷、マタソ島は、右の衛星写真(Google Earthから借用)で見るように、海にそそり立つ小さな火山島である。(双子島右下の小さな点が、今回の話に何度も出るウォタニマヌの岩と思われる)

バヌアツを構成する83の島々の殆どが、マタソと同様の火山小島で、人々は海岸の狭い土地にへばりつくように、小さな集落を作って暮らしている。小さな島には川が出来ることもなく、生きる為の水はもっぱら雨水を溜めた天水に頼る。と言っても、伝統生活では「生活用水」は要らない。風呂は海、洗濯も海でするし、木の葉の食器を洗うこともない。伝統料理は水の要らない石蒸しで、水で煮炊きする料理はごく最近始まったものだ。飲料はヤシのジュースなので、飲み水さえ要らない。

バヌアツ人のゴツイ体格からは信じられないが、人種的にアルコール分解酵素が乏いようで、酒類は全くダメ。そのかわりに「カバ」を多用する。「カバ」については、マエオの民話の中でも紹介したが、胡椒科の植物の根をすりつぶし、水に溶かして絞り出す。飲むと口の中が歯科で麻酔されたような感覚になり、やがてアルコール同様の酩酊が訪れる。バヌアツに居酒屋は無いが、そのかわり、どの集落にも必ず「カバ・バー」がある。何事もカバ・パーティから始まるバヌアツでは、カバ用の水がないと社会が機能停止する。水は「カバ」のためだけに要るようなものだ。

我々の社会に「酒」が不可欠であると同様、バヌアツでは「カバ」を飲まないと仲間に入れない。小生も業務上の必要から時折り飲んだが、あれほど不味い飲み物はない。だから一気飲みがマナー、すぐウガイをして勢いよく地面に吐き出すのもマナーの内である。カバには鎮静作用があり、酔って騒いだりする者はいない。電灯のない真っ暗なカバ・バーで、黒い巨体が全員でシンミリとしているのは、ちょっと異様な光景である。日本人はカバにアレルギーを起こす人が多く、小生も軽い症状が出たので、出来るだけ敬遠した。その分だけ、バヌアツ人との友達関係が薄くなったと言えるかもしれない。

☆ フォラリの悪魔、セガニアレ
☆ ニシンとツリク
☆ ソソロベンの伝説


フォラリの悪魔、セガニアレ

エファテ島に悪魔がいた。名前は何だって? セガニアレだよ。フォラリの暗い洞窟に住んでいた。その洞窟の入り口は三重になっていて、一つずつ魔法の杖で開けて入る。悪魔がつかまってから分かったことだが、そこには悪魔の食い物になる男や女、特に子供が捕えられていた。セガニアレは人間の肉だけでなく、豚や牛、果物も好んで食った。あいつは獰猛でガツガツしていた。

ある日のこと、セガニアレは目を覚まして洞窟を出た。風が強く吹いていた。深呼吸をして新鮮な空気をいっぱい吸い込むと、何か匂いがした。バナナの甘い匂いが鼻をくすぐった。

「ふむふむ、いい匂いだ。バナナが食いたくなったぞ!」

もう一度吸い込んでみると、その匂いがマタソ島の方から来ていることに気付いた。

「こいつは行かなきゃならん!」

セガニアレは浜へ走り、カヌーを海に押し出すと、マタソに向かって漕ぎ出した。

島から数百メートルのところまで行くと、子供が二人、浜を歩いているのが目に入った。セガニアレは音をたてずにカヌーを漕ぎ、そっと上陸して、できるだけやさしい声で呼びかけた。

「やあ、君たち。この浜で何をしているんだい?」
「魚を探しているのです」、と子供が言った。
「それはかわいそうに。ここには魚はいないよ。魚がたくさんいるところを知っているから、連れて行ってやろう。だけどその前に、この島のうまいバナナが食いたいなあ」

魚がたくさんいる浜に連れていってくれると聞いて、二人の子供はバナナを探しに行くことにした。そんなに行かないうちにバナナがあって、カヌーはすぐにバナナでいっぱいになった。

二人の子供は気が急いて、「どこに連れていってくれるの?」と聞いた。悪魔はカヌーに乗り込むところだった。

「ついてくればわかるさ。俺の島にはいろんな魚がいるだぜ!」
「おじさんはいったい誰なの?」
「俺の名前はセガニアレ。フォラリに住んでいるのさ」

悪魔はバナナの匂いをかぎ、子供が二人も美味いごちそうになることを考えると、よだれが出た。セガニアレの企みを知らない子供たちは、カヌーの中に座っていた。カヌーは順調にエファテに向けて進んだ。カヌーが岸に着くやいなや、子供たちは飛び降りてバナナを下ろすのを手伝った。セガニアレはこの不運な獲物たちを洞穴の方へと導いた。子供たちは何も疑うことなく、間もなく悪魔の洞穴の前に着いた。

「さあ、目を閉じるんだ」
「どうして?」と子供たちはいぶかった。
「俺がすることを見ないようにさ。さあ、ついてこい!」

子供は命令に従って目をつぶったが、一人は好奇心にかられ、頭を低く下げながら薄目を開けていたので、悪魔の奇妙なやり方を観察できた。セガニアレは大きな石を持ち上げて魔法の杖を取り出し、最初のドアをたたいた。ドアはシュシュッと開いた。

「まっすぐに歩くんだ。目を開けるなよ」

二人の子供は前に進んだが、賢い方の子供は目を細く開けたままで、セガニアレが魔法の杖で二つ目のドアを開けるのもちゃんと見ていた。シュシュっと開き、三つ目も開いた。

悪魔と二人の子供は暗い洞穴の中にいた。子供たちはやっと危険に気付いた。

「さあ、おまえたちを食ってやるぞ!」
「今食ったらダメだよ」と賢い子が言った。「俺達は痩せっぽちだよ。先ずさっきの美味いバナナを食ったらどう?」
「フム、それはいい考えだ」と悪魔は座り込んで、バナナを食い始めた。
「これは本当にうまいぞ!」とセガニアレは食い続けた。

食って、食って、食いまくった。全部飲み込んでしまうと、もう何も食えなかった。最後のバナナを手に取ったが、もうだめで、満足して横になって寝てしまった。

「さあ、どうやって逃げようか」
「心配するな」と賢い方の子供が言った。「おれは薄目を開けて、どうやってドアを開けたのか見ていた。だから逃げられるよ。あいつはバナナを食いすぎて、俺達を見張っていられなくなった。あれだよ!」

子供は魔法の杖を手に取り、セガニアレが目を覚まさないように、静かにドアを開けることが出来た。シュシュッ、シュシュッ、シュシュッと三つ開いた。

子供たちは自由になった。海岸に走り、カヌーに飛び乗ってマタソに向けて漕いだ。マタソから出たことを後悔していた。

次の日、悪魔はやっと深い眠りから覚めて、あたりを見回した。

「ガキ共はどこへ行った?」

ドアが開いていた。セガニアレはすぐに分かった。洞穴から走り出すと、子供の匂いを追って海岸へ行った。「俺のカヌーがないぞ。あのガキ共は俺のカヌーを盗りやがった!ま、いいか。また作ればいい」

悪魔は能力の限りを尽くして、あっと言う間に素晴らしいカヌーを作った。自分で見惚れている暇もなく、子供たちの匂いを追って海に漕ぎ出し、マタソへと追っていった。子供たちはそこに逃げ込もうとしていたのだ。

「ハハハハハ、俺から逃げられると思っているのか!」

だが、悪魔には自分の勝利を祝っている時間がなかった。岸に上がろうとしたその時、大きな波が立ち上がった。悪魔は何もできなかった。カヌーはひっくり返り、悪魔はサンゴ礁にたたきつけられた。

「イテッ!」

血がドクドクと流れ、サメが何匹も寄って来た。力を失ったセガニアレはサメと戦うこともできず、食われてしまった。

フォラリの悪魔のセガニアレは、こうしてマタソの海から永遠に消え去ったのだ。


ニシンとツリク

ウォタニマヌは岩になった神様だ。彼はその昔、南のエロマンゴ島で生まれた。地殻変動時代の美しい朝、海の中から生まれた神様なのだ。だが、エロマンゴの島民が叩き続けるタムタムを聞き飽きてエファテ島に逃げ、マニウラからエマエ島に渡った。だが、彼はエマエの人たちと気が合わず、マタソに来た。マタソに来たものの、村人とは一緒に住まず、人だけで小鳥たちと暮らした。そしてある日、彼は岩になった。

彼の従者の一人が女だった。名はニシン。ある朝、女は海辺で顔を洗っていた。ブラオの葉で髪を洗い、それを海に捨てた。その葉は波に乗ってマタソの海岸に流れ着いた。マタソの酋長たちが浜に行き、その葉を拾って指でつぶすと、甘い香りがした。

エロマンゴ島出身のチマタソが言った。

「あの女はウォタニマヌがエロマンゴから連れて来たのだろう。あの女は俺の島の女のように色が白い」

次の日、同じことが起きた。酋長たちはブラオの葉を見つけて、その甘い香りをかいだ。

「チマタソが言っていることは正しい」と皆が言い、何とかしてその女を連れて来ようということになった。

そこで彼等はカヌーを4艘作った。1日目に船体を、2日目に座るところを作り、それを合体した。船底にマットを敷き、パンダナスで織った帆を揚げた。アリカオウが最初に船を出し、岩のところへ行って歌い始めた。彼の歌はこんな具合だった。

「おまえはいつまでここにいるつもりだ?一緒に行こうよ」

女は怒って言った。「あっちへ行って! 胸くそ悪い!あんたは真っ黒だ。あんたを見ると、口の中がウンコでいっぱいになる!」

アリカオウはマタソに戻って酋長たちに言った。「女は確かにあそこにいる。若くて色がとても白く、髪が肩までかかっている。だけど、俺が真っ黒だから嫌いだという」

次はチマタソの番だった。彼は同じ歌を歌ったが、同じようにすげなく断られた。

「あっちへ行って! 胸くそ悪い!口の中がウンコでいっぱいになる」

最後に残った酋長のマラコレオが行くことになった。マラコレオも岩の前で歌を歌ったが、同じように拒絶された。

「あっちへ行って! 胸くそ悪い!色が黒すぎる。口の中がウンコでいっぱいになる」

ツリクという男がいた。下っ端で住む家もなく、吹き出物が肌中に吹き出ていて、他人の走り使いをして生活している男で、誰からもうとまれていた。そのツリクが言った。「俺にもやらせてください!」

「お前みたいに人の数にも入らぬ奴が、あの女のところに行くんだって?笑わせやがる!お前を見たら、反吐を吐いて喉を詰まらせるわ」
「俺もやってみます」

彼はマタスムスムの裏側のウィチマソムという岩のところに行った。自分のこん棒をカヌーに残して海に飛び込み、浮かび上がると、色の白いハンサムな男に変身していた。そうしてからウォタニマヌに行って歌った。

歌い終わる前に女が言った。「私を殺すつもり?早く漕いでいらっしゃい。一緒に行きましょう!」

女は飼っていた鶏を集め、持っていたマットを丸め、岩のところに行って他の持ち物を取ってきた。カヌーは女の荷物でいっぱいになった。ツリクは酋長たちに見つからないようにマタスムスムをぐるりと迂回し。深い海を渡り、ヴァレツイアのサンゴ礁にカヌーをつけた。そこでカヌーが割れて水が入り、マットやバスケットや鶏がビショ濡れにになった。そのカヌーの舳先は今も残っていて、サヴァララオと呼ばれている。

ツリクは女を洞穴に連れて行って言った。「ここに居てくれ。俺は家に行ってくるから」

彼は浜に下りて海に飛び込んだ。すると、体中に吹き出物の吹き出た姿に戻った。酋長たちは彼に問いただしたが、彼は何も起きなかったと嘘を言った。

「だが、お前のカヌーはどうしたんだ?」
「沈んでしまいました。残ったのは水をかい出す柄杓だけです。俺はニシンに放り投げられて、あぶなく死ぬところでした」

次の日、酋長たちは畑に行って赤いヤムイモを掘り、ラプラプを作ることにした。ツリクは白い小さなヤムイモを掘った。彼が他の人と違ったことをしているのが目立った。

「さあ、ラプラプはどうなるでしょう?赤いのは皆さんのものですが、白いのは俺のものです」

ラプラプが出来上がって囲炉裏から取り出してみると、赤いのはほんの少しで、残りは全部白かった。ツリクは図に乗って言った。

「俺が全部食いますよ!」
「みんなで分けよう。争いはダメだ」

次の日、皆は白いヤムイモでラプラプを作ることにしたが、ツリクはまたみんなと違って赤いヤムイモを掘った。出来上がったラプラプは殆ど全部赤かったので、同じ論争が起きた。

食い終わると、ツリクはラプラプの残りを葉っぱで包み、海に捨てるのだと皆に説明した。そうしてから海に入り、色の白い男の姿になった。

酋長たちは何かおかしなことが起きていると察知した、次の日、木を切り倒しに出かけた。木がもう少しで倒れるところでツリクを呼び、その木がどっちの方向に倒れるか見ているように命じた。彼は木の下に立った。最後の一斧でその木はツリクの肩の上に倒れた。

ツリクは何事もなかったようにその木を背負って言った。「この木をナカマルまで運んで行きましょうか?」

酋長たちはどうやってツリクを殺そうかと考え始めた。ヤシガ二を捕まえる大きな穴を掘り、その上に大岩を仕掛けた。すぐ落ちるようにしてからツリクを呼び、穴にヤシガニがいるかどうか見に行かせた。彼が穴にかがみ込むと同時に、酋長たちは大岩を押した。ツリクは素早く立ち上がった。手にはヤシガニを捕えていた。

「食い物が獲れましたよ!」

大岩がツリクの背中を転げて地面に落ちたが、彼は無傷だった。酋長たちは他の方法でツリクを殺すことを考えていたが、ツリクはまた食い残しを海に捨てるふりをして、ニシンに会いに行った。

「あいつらは俺を殺して、お前を取り上げるつもりだ」

彼は妻にナキワスという櫛を渡した

「マットを編みながらこの櫛を見ていてくれ。もし血がにじんだら、俺が死んだということだ」

ツリクは酋長たちのところに戻り、一緒にカヌーに乗り込んだ。だが、酋長たちがベルトの下にココナツとナヴェレの実を隠していることを知らなかった。サンゴ礁に行くと、大きな貝がいた。ナタラエだ。酋長たちは代わる代わる潜り、口にココナツの実を含んで浮かび上がった。

ツリクが訊ねた。「何を食べているのですか?」
「ナタラエだよ」
「もう一つ見つけたら、俺も潜って食べさせてください」

彼等は大きな貝を見つけて言った。「すぐ来い!ここにあるぞ!」

ツリクは潜って貝の中に手を突っ込んだ。貝はすぐさま殻を閉じた。酋長たちは槍をとってツリクが死ぬまで突いた。そうしてから浜に上がり、誰が女を取るのか言い争いをした。

「俺がもらった!」
「いや、俺のものだ!」
「俺がもらうってば!」

彼等は子供をニシンのところに使いにやり、ツリクが家に来たので何か食べるものを作ってくれと言わせた、

「ニシン!来てよ。ツリクが待っているよ!ツリクがマタソで待っているよ!」

だが、ニシンは櫛から血がにじんでいるのを見てしまっていた。子供が着いた時、ツリクを探しに出かけるところだったのだ。

「それはどっか他所のツリクでしょう。私のツリクは死んでしまったもの」

子供は戻って酋長たちにその答えを伝えた。

「ツリクは死んだって言っていたよ」
「もう一度行って来い」

子供が戻ってきた時、女は自分の膝まで土に埋まっていた。

「ツリクが酋長の家にいる。だから来て何か食べるものを作ってくれって」

子供は走って酋長のところへ行き、ニシンが膝まで土に埋まっていたと知らせた。

「膝まで埋まっていたよ!」

酋長たちは子供のいうことを信じなかった。

「砂に潜るのはカニだけだぞ」

子供たちはまた戻って、ニシンが肩まで潜っているのを見た。

「もう肩まで埋まっていたよ!」

子供が酋長たちにそう伝えると、酋長たちは行ってみることにした。地面に出ていたのは髪の毛だけだった。

「何をやっているんだ?お前はカニか?」
「ツリクは死んだ。私が探しに行く」

酋長たちは髪をつかんで引き出そうとしたが、出来なかった。男たちが指を鼻にやると、ニシンのあの甘い匂いがした。その匂いを追って地面を掘ったが、石しか見つからなかった。

ニシンは島をつっきって海の中に出ていた。

ニシンは磯ガニに訊ねた。「ツリクを見なかった?」
「いや、見てないね」

ニシンは少し泳いで、小さな魚に聞いた。「ツリクを見なかった?」
「いや、見なかったよ」

更に泳いで、サメに聞いた。「ツリクを見なかった?」
「見たよ、あそこだよ!」

ニシンはツリクの死体を見つけた。彼女はナリヴィリヴィを扇のようにして叩いた。その切れ端が死体を覆いつくすと、ツリクは息を吹き返した。二人で海の底へ潜った。そこで亀に出会い、ウォタニマヌまで連れて行ってくれるように頼んだ。

「俺の甲羅に乗って、しっかりとつかまっているんだよ」

こうして、二人は亀の背中に乗って岩のところに戻り、そこでずっと暮らした。今でも黒い岩が二つある。ひとつはツリク、その隣の岩はニシンと呼ばれている。


ソソロベンの伝説

400年以上も前に大爆発を起こし、トンゴア、ファレアとブニンガの島々に分裂してしまったクワエ島のすぐ近くに島がある。シェパード諸島の入り口の島、マタソだ。そう、あの海の中からとびだしたような尖がった島だ。晴れた日にはエファテからも見える。マタソは砂嘴でつながった大小二つの島で出来ている。その近くにウォタニマヌの神岩がある。生きた神様が海の中で岩になったものだ。ウォタニマヌとは「百万人の長」を意味する。

知ってのとおり、ウォタニマヌはエロマンゴ島から出てマニウォラに行った。当時の人たちはみんなそうしたのだ。それから彼はエマオに行って結婚したが、エマオやエファテの男たちとうまくゆかず、嫌気がさしてマタソに来た。そこでも酋長たちに来るなと言われ、少し戻った場所で岩になった。その岩は今もその場所にある。

その頃からマタソは海から尖った頭を出していた。標高500メートルの頂上はいつも強い風に吹きさらされていた。その昔、大きな方の島の南西部に四つの村があった。ウォラコト、マタアソ、サオウイア、シンマウリだ。隣の小さな島のマタスンスンが砦のような役目をしていて、ウォタニマヌはその先にある。ウォタニマヌは小鳥たちに囲まれ、いつも小鳥たちの糞を浴びながら、大きな二つの岩島を見ている。

今はマタソには村が一つ残っているだけだ。ナーサンという名前は、風が作った砂丘という意味だ。マタソは他の島から離れているので、たった一つの村の住人たちは、波に洗われるまま、月の満ち欠けやサイクロンのなすままに翻弄され、悲しげに見える。最後に荒れ狂ったサイクロンで、マタソは完全に破壊された。大きな島と小さな島の間に海が入り込んで分断された。村は全壊し、残ったのは教会の壁だけだった。先祖が作った立派なカヌーも岩にたたきつけられた。美しかったマタスンスンは丸坊主の島になったが、ウォタニマヌは何も助けられなかった。この島に残ったのは岩だけだ。マタソの男も女も、サイクロンが来る度に苦い涙を流しす。そしてサイクロンが通り過ぎると、その度に勇気を奮い起してゼロからやりなおす。そうだ、これが乾ききった岩の島、マタソの姿なのだ。

その昔、この気の毒なマタソ島には水がなかった。川も井戸も湧水も、全くなかったのだ。とんがり山のてっぺんにソソロベンという老人が住んでいた。彼が住んでいた場所はリーラと呼ばれたが、それはマタソ語で「どこまでも見える」という意味だ。ソソロベンはたった一人で山のてっぺんに住んでいたが、そこには島でたった一つの湧水があった。岩から澄んだきれいな水が湧き出てさらさらと流れ、それが老人の日々を楽しくしていた。その泉は老人のもので、それが自慢だった。

ある日、太陽が昇り、その日から干ばつが始まった。7月から12月まで雨が降らなかった。空から一滴の水も落ちてこなかったのだ。島は干上がった。木々は枯れ、海岸に住む人々にとって水不足は深刻だった。困り果てたウォラコト、マタアソ、サオウィア、シンマウリの人たちは、引き潮のときに砂を掘ってみたが、水は出てこなかった。

そこで、四つの村の四人の酋長が集まった。

「皆の衆、もう5か月も干ばつが続いている。島は干からびて一滴の水も出ない。干ばつが続けば飲み水が全くなくなる。どうしたら良いだろう?」
「救い道はたった一つ」
「それは何だ?」
「山のてっぺんにソソロベンが住んでいる。あいつは清水の湧く泉を持っている。あいつのところに行って頼めば、少しくらいの水は分けてくれるだろう」
「そうだ、ほんの少しだけでいいのだ。カバを作れるだけで良い。今ある水は濁っていてカバの味がしない。子供たちに水をもらいに行かせよう」

次の朝、子供たちは節を抜いた竹を持ち、大声で騒ぎながら山のてっぺんに登った。

「ソソロベン、ソソロベン、水をくれ!」

ソソロベンは寝ていたが、子供たちの騒ぐ声で目を覚ました。

「子供たちが何か歌っていたな。こっちへ来るようだ。浜の連中が水に困っているのだろう。あいつらのやりくちは分かっている。自分で頼みに来ずに、子供を使いに出しやがる」

ソソロベンは歩くときにすがる杖を手にして泉の方へ歩きだした。きれいな水が湧き出し、周りで小鳥たちがさえずっていた。島の中で水が飲めるのはここだけなのだ。

ソソロベンは泉を見て言った。「ああ、俺に力を与えてくれる水よ、汚い水になれ!汚い水になれ!」

杖で泉の底からかきまわすと、水は黒くなった。そうしてから家に戻った。家には子供たちがいた。

子供たちが言った。「ソソロベン、浜の人たちがカバを飲みたがっている。だが、水が一滴もない。泉の水を少しだけくれないか?」

「ああ、いいとも。水をやるよ」
「ありがとう、ソソロベン。あんたは良い人だ」

子供たちは歌い続けながら泉へ行った。
「ソソロベン、ソソロベン、水をくれ!」

泉に行ってみると、驚いた。

「水がきたないぞ!」
「泥水だぞ!」
「戻ってソソロベンに聞こう!」

老人は戸口で待っていた。

「じいさんよ、泉に行って見たら、水が汚れていたよ。どうしたの?」
「水が汚れていたって?今朝、鳥が水浴びをして汚したんだろう」

子供たちはがっかりして、きたない水を竹筒に入れて浜に戻った。子供たちが帰ってくるのを見て、村人は途中まで出迎えた。

「つめたくてきれいな山の水をもって来てくれたな?」
「水は汚かったよ」
「真っ黒だったよ。ソソロベンは、今朝小鳥が水浴びをして汚したと言っていたよ」

男たちはがっかりして、それぞれの家に帰った。その夕方、カバをどうするか話し合った。

「どうしよう?こんな状態が続いては困る。明日、もう一度子供たちをリーラに行かせよう」

翌日、子供たちはもう一度歌いながら出かけた。

「ソソロベン、ソソロベン、水をくれ!」

山のてっぺんに着くと、息が切れた。

「じいさん、浜の人たちがカバを飲みたがっているよ。水がないんだ。水をもらっていいかい?」
「良いとも、汲んで行きな!」

子供たちが泉のところに行ってみて、またガッカリした。

「これはダメだ。水はまた汚いぞ」

ソソロベンは子供たちがやってくるのを聞いて、泉を底からかき回しておいたのだ。だから子供たちはまた文句を言いに来た。

「また水が汚れている!どうしたの?」
「また小鳥が水浴びをしたんだ。小鳥は毎朝来ているよ」

子供は家に戻ると、親たちに報告した。

「水が汚かったよ!」
「泥水だったよ。ソソロベンに聞いたら、小鳥の仕業だと言っていたよ」
「ソソロベンは嘘をついているに違いない。泥水にしたのは小鳥ではなく、ソソロベンだ!」
「どうする?」
「何か方法を考えよう」

アリカオウの酋長が立ちあがってナカマルのまわりを歩き回り、怒りながら言った。

「トンガリキのソソマケの酋長のアタヴィは俺の相談役の一人だが、あいつは風を起こして雨を降らせる術を持っている。あいつに頼んでみよう。これからカヌーを出してトンガリキまで行ってくる。」

アリカオウはソソマケに着くと早速アタヴィに会ってこう言った。
「ソソマケの酋長よ、長いこと会わなかったな。マタソで大変な問題が起きている。水がなくてカバが飲めないのだ。ソソロベンに泉の水をくれるように頼んだが、子供が行く度に杖で泉をかきまわして泥水にするのだ。知ってのとおり、あいつは島のてっぺんで暮らしている。あいつに見つからないように泉には行けないのだ。ソソマケよ、何か良い知恵はないものか?」
「そうだな、方法はある。雨は雲から降る。俺は風を起こして雲を動かすことが出来る。どんな風をお望みだ?南東の風のルアツか?北東の風のトケラオか?南風か?東風か?」
「俺にはわからん。どんな風が良いのだ?」
「南風を吹かせると、ソソロベンは雲が流れてくるのを見て、何か対抗策を打つだろう。東風でも北風でも同じことだ。ソソロベンは雲が流れてくるのに気がつく。だが北風だけは見えない。あいつを不意打ちできる」
「それなら北風を頼むぞ」

アリカオウはソソマケを連れてマタソに戻った。次の日、ソソマケは北風を呼んだ。

「さあ、来てくれ、さあ、吹いてくれ、もっと強く、もっと速く!」

北風が吹き始め、強さを増した。マタソのてっぺんにあるソソロベンの家は、突風をまともに受けた。ソソロベンは家のナマナオの柱を飛ばされないように縛りつけたが、風が強すぎて家が吹き飛んでしまい、浜の岩に激突した。ソソロベンは歌い始めた。

酋長たちは浜で風の具合を眺めていた。ソソロベンの悲しげな歌が風で流れて聞こえた。

「やったぜ!風があいつの家をぶっ壊した。そのうちに山から下りて俺達に会いに来るぞ」

ソソロベンは風で何もかも失い、歌いながら山を降りてきた。浜に着くとアリカオウ酋長に会いに行った。

「アリカオウ、俺の家がなくなった。材木をくれないか?」
「俺達は忙しい。水が要る。お前は俺達に水をくれなかった。お前の手助けはできない。帰ってくれ」

ソソロベンは落胆してチマタソの酋長のところに行った。

「チマタソよ、俺の家が風で飛ばされた。材木を運ぶのを手伝ってくれないか?塩もほしいのだが」
「材木はたくさんあるし、塩もある。だが、俺達が水が欲しい時に、お前さんはかき混ぜて泥水にした。あの時、俺達を助けてくれなかった。だからお前さんを助けられない」

ソソロベンは次にタラヴァキの酋長のところに行った。

「タラヴァキの酋長よ、材木と塩を運ぶのに男手を貸してくれないか?」
「男手はたくさんある。だがお前さんが俺たちを助けてくれたことがあったか?お前さんは水をくれたことがない。あっちへ行ってくれ」

ソソロベンは杖を持ってマラコレオの酋長のところへ行った。酋長は老人が来るのを見て手下たちに言った。

「ソソロベンが来た。あいつは俺達がカバを作る水を断った。こん棒の準備をしろ!」

ソソロベンが何か言い出す前に、マラコレオは手下の男たちに言った。

「あいつだ!こん棒でぶん殴れ!」

ソソロベンは逃げようとしたが、矢が彼の肉を突き刺し、こん棒が降り注いだ。ソソロベンはやっと海岸まで逃げ、水際で倒れた。彼は岩になった。

その昔、マタソには水がなかった。ソソロベンは山から下る時に水を連れて下った。彼が水を連れて下った道は今もある。少し掘ればソソロベン水が湧き出る。