マレクラ島は犬が座った形をしている。首すじにあたる部分にノルスプとラカトロという二つの町がある。この町はケイタイが通じるし、青年協力隊の女性隊員が配置されたこともある。胴体から脚の部分は原始の森で、体格や習慣の異なるいくつもの部族が割拠している。東京都の面積の島に28の伝統言語が残っているが、それだけ原始の度合いが深いと言えるかもしれない。

メラネシアの島々には食人の風習があったが、最後の事例はマレクラ島で1969年にあったと記録されている。自然の恵みが豊かなメラネシアでは、食人はもっぱら死者への礼を表わす儀式として行われていたようだ。それにしても、最後の現場がノルスプ警察署裏の広場だった、というのがちょっと可笑しい。

☆ 英雄アンバットと魔女ネヴィンブンバァ
☆ 海はどうして出来たか
☆ マレクラの小人族


英雄アンバットと魔女ネヴィンブンバァ

マレクラは今日も雨だった。雲が空を覆っていたが、風は少しおさまっていた。小さな人たちが暮らしているこの村では、家々から朝の炊ぎの煙が上がっていた。この神秘の島の西南部の丘に住む人たちは、お互いに無視しあうか、それとも戦うべきなのか、分別がなかった。悪魔があちこちに居て、人間の姿をしていることもあった。幽霊も居た。幽霊たちは山谷を巡り、通りすがりの気の毒な人達につきまとっては捉えた。森は人間を見つけて食ってしまう化け物の棲みかだった。

象牙色のシュロの葉で葺いた小屋の屋根から煙が上がり、夜が明けようとしていた。弱い雨が降る寒い朝だった。西南部の沖にトマンという小さな島がある。人間が最初に住み始めたのはこの島だった。大きな島よりも小さい島の方がよほど安全だから、これは確かな話だ。トマンは堅固な砦のような島で、周りを囲む海が敵の攻撃を防ぐ塁壁になっている。この小さな島と向かいあう山地に住んでいる人たちもいた。アンバットとその兄弟たちもそうだった。

アンバットは大きな男で、最年長のリーダーだった。彼は白人だった。白人?どうして?と聞かれても、答えようがない。とにかくそうだったのだ。アンバットには4人の兄弟がいた。アウィンララ、アウィンゴトゴト、アウィンサペリウ、アウィンキワスだ。

太陽が上り始めたが、まだ雨が降っていた。アンバットは兄弟たちに言った。「今日は太陽もびしょ濡れだ。畑にバナナを植えよう」

アンバットに言われて、兄弟たちはバナナの切り株を担いで畑に出かけた。植えたバナナの木は大きく育ち、たくさんのバナナが生った。最初に熟れたバナナはアウィンララのものだった。

「アウィンララ、お前のバナナはよく熟れている。神の思し召しだ。さて、次は魚獲りだ。魚入りのラプラプを作ろう。弓と矢を持て。出かけるぞ」

アンバットが先頭に立ち、兄弟たちが続いた。海岸に着くと、兄弟たちは散った。アンバットは右へ、他の兄弟たちは左へ行った。彼等は大きな岩の上から弓矢で魚を獲ろうとした。だが、その岩にはサンガレガレ(魔女)が隠れてたのだ。サンガレガレはとても背が低く、手のツメは鉤のように曲がり、髪が足に届くほど長い。このサンガレガレはネヴィンブンバァという名前だった。サンガレガレは歩く時に、ダランと垂れ下がった乳房を肩に放り上げる。魔女に美人はいないし、とにかく小柄なのだ。その小さな老女が男たちを眺めていた。

「そこの可愛い坊やたち、おまえ達をとって食うよ、フッフッフッ!

男たちは小さな魔女が目に入らず、岩から岩へと飛びまわって魚を獲っていた。魔女の方は、どうやって男たちを捕まえるか、考えをめぐらせていた。

「そうだ、平たい岩を見つけて、それに座ってお乳を持ち上げよう。そうすれば私に気が付いて、見に来るやつがいるはずだ」

魔女は適当な岩を見つけるとその上に座ったが、やがて待ちくたびれて寝転んだ。アウィンララは、魔女がいるとは知らずにその岩に近づいて行った。突然ドカンと岩が炸裂して魔女が姿を現した。

「そうか、岩の上にいたのは、あんただったのか」
「そうだよ、私だよ。ところでお前さんは何をしているんだい?魚獲りかい?」
「そうだよ、魚獲りだ。俺の兄弟たちは岩の向こう側にいる」
「どこへ行くんだい。ここに居なさいよ」
「いや、俺の魚獲りの邪魔しないでくれ。俺のバナナが最初に熟れたので、それでラプラプを作る。だから魚が要るんだ」
「私といっしょにおいで。私の家はとても居心地が良いよ」
「いや、俺は魚獲りをする。俺のバナナは熟れていて、だから魚を獲らなければいけないんだ。兄弟たちが俺を待っている」
「ダメ、私と来なさいよ。一緒にラプラプを食べようよ」
「しつこいな。皆が待っているんだよ」
「さあ、一緒にラプラプと魚を食べようよ」

とうとうアウィンララは説き伏せられて、魔女と並んで丘に向かって歩き始めたが、ちょっと心配になった。

「あんたの家はどこにあるんだい?」
「すぐそこだよ。そこに行けばアンバットや他の兄弟たちの話し声も聞こえるよ。すぐそこだよ。ほら着いたよ」

魔女はウソを言いながら、一つのことだけを考えていた。こいつをどうやって食うか!

家に着くと、二人でラプラプを作り始めた。アウィンララは石を焼き、女はバナナをつぶして練り合わせ、葉っぱで包んだ。二人はこれを焼けた石の上に置いて土をかけた。

「さあ、ラプラプが出来た。どうぞ食べてちょうだい。私と一緒で嬉しいだろう?」
「ああ、だけど食い終わったら兄弟のところに戻るよ。心配しているだろうから」
「心配?どうして?」

サンガレガレが考えることはただ一つ、目の前のご馳走のことだ。魔女ははやろうと思えば何でもできるし、どんなふうにやるか予想がつかない。

「俺は帰るよ」
「ダメダメ、帰っちゃダメ。外を見なさい。雨が降りそうだよ」

アウィンララは小屋の戸口から顔を出して空を見上げた。雲一つ無かった。
「雨なんか降ってないよ。俺は帰る」

その時、魔女は屁をひった。すると雷鳴がとどろき、雨が降り始めた。
「ほらごらん、雨が降ってきた。帰れないよ。ここに居なさいよ」

魔女の小屋の裏には大きな穴が掘ってあって、平たい石で蓋をしてあった。

サンガレガレはどうしてもアウィンララを引き止めようとして言った。「ちょっと待ってね。裏で着替えてくるから。すぐ戻るからね」

アウィンララはこのトリックに気づかなかった。裏へ行った魔女は、大きな穴を蓋していた石をのけた。

戻ってくると、女は言った。
「こっちの方が似合うでしょう」
「さあ、どうかな。俺はもう帰るよ」
「ダメ。雨が降っていると言ったでしょう。小屋の裏に篭がつるしてあるから、ラプラプの残ったのを入れておいてね」

アウィンララは葉っぱでラプラプを包み、小屋の裏の暗いところへ行った。穴が見えなかった。そして落ちた。

「これで一丁上がり! フッフッフッ!」

アウィンララの姿が見えないことを、ほかの兄弟たちはあまり心配していなかった。友達の家にでも泊ったのだろうと思っていたのだ。翌日、彼等はまた魚獲りに出かけた。アウィンゴトゴトは他の兄弟たちから遠く離れ、サンガレガレがいるとも知らず、岩に近づいて行った。すると、例の老女が岩を炸裂させて姿を現わした。

「魚を獲っているのかい?」
「そうだよ。だけど、あれを見たかい? 岩が炸裂したぞ」
「お前さんはどこへ行くの?」
「言ったとおり、俺は魚を獲っているんだ。ここらでアウィンララを見かけなかったかい? 昨日から姿が見えないのだ」
「いいえ、見かけなかったね」
「おかしいな。何かあったのかな?」
「本当に誰も見かけなかったよ。お前さん、家に来ないかい。ラプラプを作ろうよ」

アウィンゴトゴトは行きたくなかったが、女の誘いに根負けした。女について行き、昨日と同じようにラプラプを作ったのだ。ラプラプを食べ終わると、彼は帰りたがった。だが、サンガレガレが屁をひると、また雨が降り出した。

「帰れないよ。雨が降ってきたよ。食い残しのラプラプを葉っぱに包んで、あそこの竹に掛けておいて。小屋の裏のあの竹だよ」

サンガレガレは穴の上の石をどけておいた。アウィンゴトゴトは、ラプラプを竹に掛けに行き、穴に気付かず、落ちた。

「もう一丁あがり! フッフッフッ」

サンガレガレは満足した。全て計画通りだった。獲物が二つ、穴の中にいた。もう考える必要は無い。システムが機能しているのだ。サンガレガレは岩の上に寝そべって、三番目の弟のアウィンサペリウが来るのを待った。彼はやって来た。まだ魚獲りをやっていた。岩が炸裂した。

「家においで。ラプラプを作るから」

全く同じように、アウィンサペリウは魔女の家でラプラプを作った。
「残ったラプラプは、小屋の裏のカゴの中に入れておいてね」

「これで三丁あがり! フッフッフッ」

次に四番目のアウィンキワスやってきて、また同じように穴に落ちた。

最後に残ったのはアンバットだった。

「アウィンララの姿が見えなくても別におかしくない。あいつは話し好きだから、どこかで引っかかっているのだろう。だが、他の兄弟が一人また一人と姿を消したのは、ただ事ではない。明日探しに行こう」

次の日、アンバットは畑に行った。バナナは腐っていた。
「バナナを腐らせてしまった。何か悪いことがありそうだ」

最年長のアンバットは、それだけ思慮深かった。彼は乾燥したココナツの殻を割って中の実を取り出し、バナナや、竹で作ったナイフと一緒に、髪にしっかりと結びつけた。そうしてから海岸に下り、炸裂した岩に近づいた。魔女が現われた。

「ああ、わかったぞ。俺の兄弟を隠したのはあいつだ。さあ、どうしてくれるか…」
「そこにいるのは、美味しそうなアンバットかい?」
「そうだ、俺だ。俺の兄弟たちはどこに居る?」
「私は知らないよ」
「知らないだって?」
「そうだよ、知らないね」
「いや、お前は知っている筈だ」
「だから知らないと言っているだろう。ところであんたは何をしているんだね」
「魚獲りだよ。俺のバナナは熟れている。魚入りのラプラプを食いたいのだ。兄弟たちのバナナは腐っていた。おかしなことだ」
「そうかい。じゃあ私の家に行こう」
「家はどこだ?」
「すぐそこだよ」
「俺はあんたの家には行きたくないね。俺には自分の家があるから」
「おいでよ、アンバット。私の家でラプラプを作ろうよ」

アンバットは女について行った。ラプラプが出来ると、二人で食った。

「俺は帰るよ。腹一杯だ」
「ダメだよ。外は雨だよ」

女が屁をひると、空を切り裂くように雷光が走った。
「ほらね、雨だよ。帰れないよ。ここで私と寝ようよ!」

雨が滝のように降り、哀れなアンバットは魔女の家に留まるしかなかった。

「このラプラプを、あそこの暗いところにかけてある篭に入れておいてね。それから私のベッドにおいでよ」

女は今度も篭を穴の上にかけておいた。アンバットはドギマギしていたので、穴が見えず、落ちた。

「フッフッフッ、これで五人目だ。フッフッフッ、みんな穴の中だ。フッフッフッ」

「アレッ、兄弟!」
「アンバット、お前もか?」
「俺達は穴の底にいるんだ」
「あの魔女は俺達を食う気だ。やっと分かったぞ」
「どうやって穴から出る?このままではみんな死んでしまうぞ。ハラも減った」
「俺はラプラプとココナツを持ってきた。これを食え。明日になったら、ここから脱出するのだ」

その夜、アンバットと兄弟たちはぐっすりと寝た。次の朝、アンバットは兄弟たちにバナナを食べさせて空腹を満たした。

「さあ、食い終わったら仕事だ。竹のナイフで掘るのだ。ガジュマルの根を探せ」

アンバットと兄弟たちは、竹のナイフで土を掘った。ガジュマルの根を見つけると、そこを掘り進めた。それを伝って行けば、村の広場のガジュマルに行き着く筈だ。

女は何が起きているのか気付かず、獲物が穴の底にいるものとばかり思っていた。女は心待ちにしていたナマンガキ(昇位を祝う祭礼)まであと何日か、指折って数えた。

「あと二日で私のナマンガキだ。豚を殺して私のランクが上がる。私はムワルウェンになれる。あと二日で私のナマンガキ、私のナマンガキ、ナマンガキ…!」

アンバットと兄弟たちは穴の底で掘り続けていた。疲れるとアンバットが歌った。5人は必死だった。彼等は村の広場のガジュマルの根を探し当て、それを伝っていたのだ。

「アンバット、俺達は疲れたよ。それにハラもへってきた」
「もっと頑張れ。ココナツを食え。無駄口をたたくな」

アンバットはまた歌った。掘り続けて、とうとうガジュマルの根元にたどり着いた。

「ガジュマルはこの真上だ。もう少しで脱出できるぞ!」

マレクラの人たちがあちこちから、ナマンガキの祭礼に集まり始めていた。彼等は歌い踊っていた。アンバットと兄弟たちは、あと少しで地上に出られるところだった。アンバットは兄弟たちを励まして最後の歌を歌った。

「さあ、出るぞ」

アンバットが穴から顔を出した。地面に草木が生えていなかったので、広場の片隅と分かった。

「さあ兄弟たち。皆が踊っているのが聞こえるだろう。もうじき夜になる。俺達が出るのはそれからだ。今はここに隠れているのだ」

人々はナマンガキに集まって歌ったり踊ったりしていたが、一部の人たちは、アンバットとその兄弟の姿が見えないことを心配していた。彼等はこの辺りでは良く知られていたのだ。

誰かが言った。「アンバットはどこに居るのだ? 彼が居ないと、このナマンガキは始まらないぞ!」

夜になった。アンバットと兄弟たちは小屋の間からそっと出た。彼等は衣装を整えたかったのだ。体と顔を洗い、足に鈴を付け、髪に花と羽根を飾り、腰にクロトンの葉を飾った。準備が整うと、彼等はダンスの輪に飛び込んだ。ダンスは朝まで続いた。

「さあ、兄弟たち、踊れ、踊れ、踊れ、そうすれば・・・」

太陽が小屋と椰子の木の間から上り始めると、アンバットは顔にメイクアップを施し、誰だかわからなくしてから、魔女に会いに行った。

「さあ、このナマンガキはあんたの為の祭礼だ。豚を殺して、一晩中歌い踊り明かした人たちにふるまうんだろう?皆大喜びだぞ。さあ、豚を殺そう。豚はどこにいるんだ?」

女は穴に走って覗き込んだ。

「アレッ、あいつらはどこへ行ったんだ?穴はからっぽだぞ。私はどうしたらいいんだ?豚がいないぞ。逃げたのかな?」

「豚が逃げたって?こんなに大きなナマンガキをする時は、豚が逃げないように特別注意をするものだ。人が集まって一晩中歌ったり踊ったりするのは、豚を食いたいからだ!豚肉入りのラプラプが食えるからだぞ!先ず1匹殺して食ってからナマンガキの祭礼をやり、それから踊る。それから2匹殺してお土産に持たせる。それが決まりだ。さあ、豚はどこに居る?」
「居ないんだよ」
「この女が豚を持っていないのは、俺達を殺して豚の代わりにする気だったからだ。俺達を殺して自分のランクを上げようとしたのだ。今日、死ぬのはこの女だ。お前は自分のナマンガキのために死ぬのだ。それはお前がサンガレガレだからだ。これでナマンガキはおひらきだ」アンバットは女に飛び掛かって殴った。

「俺達を食いたいだって?お前の魔力はどこにあるのだ?言え!もう魔力は残ってないのか?おい、豚はどこに居るんだ?こいつをくらえ!くらえ!」

アンバットは力まかせに女の頭にこん棒を振り下ろした。女は倒れて死んだ。

「さあみんな、手当たり次第豚を殺せ。全部殺せ!」

男たちはアンバットに言われたとおり、ナカマルの周りにいた豚を全部殺した。ある者はトマン島まで、またあるものは西南の山奥の村まで持ち帰った。女はと言えば、広場にひっくり返ったまま腐ってしまった。


海はどうして出来たか

その昔、バヌアツで最初の人間がマレクラ島にいた。彼等が原始的だったのは言うまでもないが、きちんと統制のとれた暮らしぶりは、今とそれほど違っていなかった。彼等はラプラプの作り方も知っていた。だが、塩を使わなかったので、正直なところ、あまり美味いとは言えなかった。そもそも、塩がどんなものかも知らなかったのだ。

ある日のこと、一人の村人が狩をしに森の奥に入って行った。森の中に巨大なパンノキが倒れていた。なぜ切り倒されたのか?誰が切り倒したのか?まったく不思議だった。その幹はとてつもなく長く太かった。幹から奇妙な液体が滲み出していた。男はその味をみた。水のようだが、ちょっと後味が残った。彼は竹を探した。この液体を持ち帰って、ラプラプに入れてみたらどうか、と思ったのだ。

この不思議な発見をした男は結婚し、息子の父親になった。彼は家族を愛し、他人とはちょっと違うラプラプを作って、家族ご馳走するのを誇りにしていた。それでもなお、彼はこの工夫を秘密にしていた。

「今晩のラプラプは俺が作る。おまえ達はあっちへ行っていろ。出来たら呼ぶから」と彼は言った。

妻と息子はわけを聞かず、そのとおりにした。息子は友達と遊びに村のほうへ走って行き、妻も自分の友達とおしゃべりに出かけた。息子は自分と同じ年頃の友達と楽しく遊んでいたが、小屋のまわりを走りまわったり笑ったりしているうちにハラがへってきた。あんまり減ったので、家に帰って父親を探すことにした。

父親は出来上がったラプラプを囲炉裏から取り出すところだった。

「お父さん、ハラ減ったよ」と少年は出来上がったラプラプを見て叫んだ。

「ちょうど良い時に帰って来た。今出来上がったところだ。このラプラプはそんじょそこらのラプラプとは違うぞ。誰にも言うな。誰にも食わせるな。もししゃべったり食わせたりしたら、お前は世界中を裏切ることになる。わかったな?世界中を裏切ることになるのだぞ。だから黙っていろ!」

息子は父親の言葉にひっかかったが、言われたとおりにすると約束した。彼はラプラプを一口食べてみた。こんなに美味いのを食べたことが無かった!

「これは美味い!」舌もとろけるような美味い食べ物を作れる父親を誇らしく思った。

彼は友達のところへ戻り、しばらくは黙っていたが、ついしゃべってしまった。

「俺のお父さんが作ったラプラプみたいに、うまいのを食ったことがないだろう。ああ、美味かったなあ」

友達はそのラプラプを食ってみたくなった。

「よし、ほんのちょっとだけだぞ。お父さんに怒られるからな。誰にも言うなって言われているからな」

他の少年達も、その新しい味のラプラプに感心した。

「お前のお父さんは、どうやって作ったんだ?」と聞いた。
「どうやったんだ、どうやったんだ」と皆が聞きたがった。
「オレ、知らないんだ」

友達はガッカリした。秘密を知りたかったのだ。
「心配するな。オレに考えがある」と少年は得意そうに言った。

次の日、少年は父親のあとをつけて森に入った。父親はパンノキの倒木のところに行き、塩味のついた水をそっと竹に注いだ。それを少し遠くから見ていた少年は、秘密を知った。興奮しすぎて慎重になるのを忘れ、少し近寄った。父親は少年を見て激しく怒った。

「家に帰れ!ここへ来るな!俺が本気で怒る前にあっちへ行け。今すぐだ!」

だが、遅すぎたことは分かっていた。貴重な液体がどこで手に入るのか、息子が知ってしまったのだ。どうにでもなれ、と思いながら、最悪の事態が起きるのを待った。

すぐさま、水がどくどくと流れ始めた。パンノキの幹全体から、水のかたまりがブクブクと湧き出し、勢いを増して、あっという間に辺りは水浸しになった。水はどんどん溢れ、村を飲み込み、人が溺れ死んだ。そして世界上を満たし、あちこちに小さな土地が残るだけになった。

世界地図を見ると、大陸や島が点々としている。ずっと昔、塩水(今は海と言うのだが)は無かったのだ。その頃の世界は一つの陸地だった。だが今はいくつにも分かれている。それは、その昔、マレクラの少年が、父親の言うことを聞かなかったせいだ。だから、人間は海に隔てられて、あちこちに分かれて住んでいるのだ。


マレクラの小人族

その昔、マレクラには不思議な生き物がいた。小人族で、3歳の子供の背丈より大きくならなかった。その頃、島にはたくさんの小人族がいた。丈の高い草むらに住み、いつも身を隠していたので、近くの村人達も彼等の存在を知らなかった。だから村人たちは、小人族が起こす不思議な現象に驚かされてばかりいたのだ。小人族はとりわけ畑仕事が好きだったので、村人たちは畑に出てびっくりすることが多かった。

例えば、男が一人で畑の草取りを始め、一隅だけ済ませて帰ったとする。次の日、畑に行って見ると、畑全部の草取りが終わっていた。またある時は、草がいい具合に乾いたので焼き畑を始め、途中で止めて次の日に行って見ると、全部焼き終わっていたし、ある時など、バナナを1本だけ植えて帰り、次の日に行って見ると、全部植え終わっていた。誰の仕業か分からないので、島の人たちは驚きっぱなしだったのだ。

こんなことが続いたある日、一人の男がヤムイモを植え始め、次の日に行って見ると、畑全部にヤムイモが植え終わっていた。村人がやり始めたことを、小人族が済ませてしまったのだ。ヤムイモに支え杭を1本だけ立てて帰ると、翌日には全部のヤムイモに支え杭が立たっていた。こんなのはまことに好都合なのだが、小人族の仕業には具合の悪いこともあった。ヤムイモの育ち具合を見ようと思って1株だけ掘ると、次の日には全部掘りかえされていたのだ。人間が始めたことを小人族が全部終わらせるということは、畑を壊して収穫物を台無しにしてしまうことにもなったのだ。

もういいかげんにして欲しい。テンマルの村人たちはうんざりしていた。彼等はいったい何がどうなっているのかを知りたくなって、徹夜で畑を監視することにした。長く待つほどもなかった。小人族の仕業と分かったのだ。対策は簡単だった。夕方、小人族が畑で仕事をしているときに、かたっぱしから捕まえることは、わけなさそうに思えた。

「もっと上手い手があるぞ。あいつ等を永遠に片付けよう。オレは笛を持ってゆく。最初の笛でお前たちは小人族に近付き、次の笛で枯れ草に火をつけるのだ」

酋長がそう言うと、皆が賛成した。このリーダーに従っていれば、戦に負けることはないのだ。

次の日、作戦は実行に移された。村中の男たちがたいまつを持ち、月のない真っ暗な闇を歩いて、ひっそりと畑に這い寄った。突然、酋長の笛が夜の静寂を破った。男たちはすばやく小人達をとり囲み、逃げられないように壁を作った。笛がもう一度響き、男たちはたいまつで枯れ草に火を放った。パチパチいう音で小人族は跳ね上がり、煙を見たけれど、動かなかった。彼等には火がずっと遠くに見えたのだ。火が近づいてくるのを見ても信じなかった。小人たちはあっちこっち逃げ回ったが、もう手遅れだった。火炎が彼等を巻き込み、何をする術もなかった。命取りのワナにかかったのだ。

次の日、村人たちは勝利を味わった。彼等の畑は真っ黒になったが、小人族もいなくなったのだ。この話はちょっと残酷だが、結果は明白だ。小人族がいなくなったので、畑仕事は前よりも大変になったが、作りたいものを作り、収穫して食べられるようになったのだ。